2023/06/13 さくらんぼの思い出
火曜日 くもり
小粒のさくらんぼが、手の出るお値段だったので買ってきた。
季節ならではのものは一度は食べたいという他に、忘れられないことがある。
7年前の人工股関節置換の入院の時、大部屋で長い時間を隣同士のベッドで過ごしたM子さんのこと。
内科の患者の彼女は、ベッドの都合か、整形外科の病室に入院していた。
詳しいことは聞かないけれど、指が動かしにくいそうで、1回分の薬の錠剤をまとめてある袋を1つずつに切り離したり、包帯を巻いたりするのを手伝った。
ヒマは持て余しているし、何ということもない。
入浴介助の看護師さんが若い男性だと皆さん嫌がっていたが、新人さんを教育するのだ、と率先して手を挙げて、こうやって見せてやったとバスタオルの前をばっと開ける真似をして皆を笑わせるような人だった。
今までの長い闘病生活をぽつりぽつりと語ることもあったが、終始明るい口調は変わらなかった。
こちらの話も聞いてくれたり、夜に廊下で自主リハビリをしていたりするとよく声をかけてくれたりもした。
整形外科の患者は、急性期を過ぎたら比較的元気だし、なにより命に関わる状況ではない人が多い中で、きっと思うこともあっただろう。
それは言わず、沢山あるらしい自己免疫系の病名を困った困ったと朗らかに言うので、こちらもそれほどは深刻に受け止めていなかった。
担当医が朝一番で必ず顔を出したり、ご主人が近くでもないのに毎日来られるのも、週末には外泊されるのも、後から思うと理由があったのだ。
たまに、ご主人が皆の分まで差し入れしてくださるのをいただいたりして、呑気に採れたての新じゃがの蒸したて、初物のさくらんぼ、などと喜んでいた。
さくらんぼは、時季の間ずっとの入院で、今年は食べられないと思っていたと言う私に、M子さんも喜んでくれた。
ひと回りほど年上なのに、時々年下みたいに錯覚するような可愛らしい人だった。
ひと足先に彼女が退院するとき、時々入院するし、通院もあるから、また会いましょう、と連絡先を交換した。
一度連絡したけれど、都合が合わなくて再会は叶わず、秋ごろに新聞のおくやみ欄で亡くなったことを知って驚いた。
忘れないように、あの日病室で撮ったさくらんぼ(トップ画像)を、グーグルのプロフィール画像にしたけど、そんなことしなくても忘れない。
保育園児の頃、名前代わりのマークがあって、持ち物や靴箱にシールが貼ってあり、私のはさくらんぼだったことを思い出した。