新型コロナウィルスの発生源について②原子力科学者会報(BAS)の記事抄訳
BASによる自然発生説と研究所漏出説の比較
5月10日に発表された原子力科学者会報(BAS)の記事は世界的に最も有名かつ論点が明確で分かりやすい為、二回に分けて簡単に訳したものを載せます。原著はこちら
発生源について主な仮説は二つあります。一つは動物から人間への自然感染説。もう一つはウィルスはラボから流出したものという説です。
重要な点ですが、現時点では、どちらかと決定できるような証拠はありません。ですから示せるのは結論ではなく、考え方をつけるための道筋です。
2019年12月にパンデミックが起きてから、中国政府は多くの症例は野生動物を売り買いしている海鮮市場で起きているとレポートしました。
これはすぐに科学者達にに2002年にコウモリからジャコウネコを通して広まったSARSを思い起こさせます。
また2012年には同様にコウモリのウィルスがラクダを通してMERSを引き起こしています。
ウィルスのゲノム解析により、このウィルスはSARS1とMERSと同じコウモリコロナウィルスとして知られるベータコロナウィルスファミリーに属す事が分かり、今回も同様にコウモリから他の動物を介して感染が広まったのではないかという仮説が立てられました。
しかしこの仮説はすぐに破綻します。中国の研究者が武漢で報告した初期の症例は海鮮市場とは関係ない場所で起きていました。裏付けるためには更なる証拠が待たれます。
一方で、武漢には、武漢ウィルス研究所という世界を牽引するコロナウィルスの研究施設があります。
ですからウィルスがラボから漏出した可能性というのはそもそも除外してはいけないものです。
かなり早い時期から、メディアは2つの科学者グループの強力なステートメントを支持してきました。
「我々はCovid19は自然発生したものではないという陰謀論に強く反対する。」
2020年2月19日 ランセットの記述です。まだ断定するにはかなり早いと思われる時期から科学者は「コロナウィルスは自然界から発生したと、圧倒的に結論付ける」と発表し、中国の同僚達とともに疾病に立ち向かうよう呼びかけました。
これは「科学者」としては異常な事です。
というのも科学者というのは通常激しい痛みを伴いながらも「知っている事」と「知らない事」を分けなければいけません。
知るはずの無い事を「圧倒的Overwhelminglyに結論づける」事は科学の分野ではありません。
この有名な(世界中で訳されYahooニュースになった)ランセットのレターはニューヨークの「エコヘルスアライアンス」のピーターダスザックにより執筆されていた事が分かりました。
エコヘルスアライアンスというのは武漢ウィルス研究所に資金援助を行ってきた組織なので、ランセットのレターに書かれていた「We declare no competing interestsー 本論文に関して開示すべき利益相反事項はない」との宣言に背く利害関係があるという事です。
しかもピーターダスザックはWHOのコロナウィルス発生源の捜査チームのメンバーでもあります。
ダスザックやその周りの研究者達は、20年にも渡って世論の目の届かないところで、「危険なゲーム」を行ってきました。
彼らはルーチンで自然に存在するよりももっと危険なウィルスを作り続けてきた人たちです。
彼らはずっと、自分たちの研究は安全で、自然に起こるパンデミックを予知する事が出来ると主張してきました。
ですからもし新型コロナウィルスがラボの研究所から漏出した事が知られてしまうと、中国だけではなく世界中のウィルス学者が非難の嵐に晒されてしまうのです。
マサチューセッツ工科大学のアントニオ レガラドが2020年3月に話したように「これは科学者という複合体が頂点からから底辺まで粉々になる」事態です。
2つ目の、世論に重要な影響を与えた論文はジャーナル ネイチャー メディスン2020年3月17日号に記載されたレターです。これはクリスチャン・G・アンダーセン率いるウィルス学者グループにより著されたものです。
「我々の分析は明らかに、SarsCov2がラボで作られた、又は目的をもって培養されたウィルスではない事を示した。」
ところがこれも、科学的とは言えない論文です。
というのも、確かに昔は、ゲノムを切り取って貼り付けた場合、それを示すサインが見つけられる事がありましたが、新しいゲノム挿入方法「シームレス」アプローチを使えばこのようなサインは元々無いのです。
または、シリアルパッセージ法のようにウィルスを細胞から細胞へ感染させ増幅させる方法にも、サインはありません。
アンダーセンもその同僚も、読者にはそんな事は分からないだろうと考えたのでしょう。
レターのディスカッションのパートではSars-Cov2がラボでの増幅や類似ウィルスに関連して現れたというのは「考えにくい」と述べています。待って、先ほど「明らかに作られたものではない」と書いてあったはずですが、理由を述べる段になると確実にトーンダウンしています。
まず一つ目の論点ですが、科学者は、「SARS2のスパイクプロテインは人間のACE2レセプターに非常に強く結合する、しかし計算の示したベストな結合とは異なる。従って、ウィルスは人工ではなく、自然に発生したものであろう。」と主張しました。
この議論は少し分かりにくいと思います、なぜならとても無理をした理屈なのです。
この著者の基本的な想定は、コウモリウィルスを人間に結合しやすくする方法は、誰がやっても一種類しかないはずだから、人工的なウィルスではないはずだ、という意味になります。
しかし、この主張は実際にウィルス学者が行うやり方を完全に無視しています。
ウィルス研究者は、計算ではなく、他のウィルスからスプライシング(切り取り)するか、またはシリアルパッセージという方法で、ターゲットに結合できるスパイクタンパク質を作成します。
シリアルパッセージというのは細胞を使ってウィルスのコピーを繰り返し、人間の細胞に強く結合するような遺伝子を発現させる方法です。
自然淘汰が選択の全てを担います。
アンダーセンの計算を用いたスパイクタンパク質のデザインという推測は、二つの実際に行われている手法、どちらとも合致しません。
アンダーソンの人工説に対するもう一つの論点は更に説得力がありません。
DNAというのは多くの生き物の遺伝子をコードしますが、ウィルスの多くはDNAではなくそれに似た、従弟のような遺伝子RNAを持っています。
しかしRNAというのは複製が難しく、コロナウィルス研究者はRNAゲノムを最初にDNAに転換するのです。
そのDNAを複製し、遺伝子を加えたり変更し、それから感染力のあるRNAの形に戻します。
文献に記載されているDNA骨格は、わずかです。
アンダーセン達はこう書きました。
「SARS2を複製した人物は文献に記載されているDNA骨格を用いている”はず”だ、しかしウィルスのDNA骨格は文献に記載されていない、従ってこのウィルスは人工的に作られたものではない。」
しかしDNA骨格というのは、簡単に作る事が出来るため、文献に記載されていないDNA骨格を用いて合成する事は、明らかに可能なのです。
以上が、アンダーセングループによるSARS2が「明らかに人工的に作られていない、とする声明の内容です。そして、たったこれだけの内容が世界中でラボからの漏出が科学的に否定された証拠として報道されたのです。
一体何故、他のウィルス学者はアンダーセンの発表はあまりにも馬鹿げていると言うのをためらうのでしょう。
おそらく、現状では、大学研究員の発言は非常にコストが掛かるからです。
ラインから逸れればキャリアは台無しになりかねません。
自分の属しているコミュニティの出した声明に歯向かうという事は、次の補助金の交付が認められない事に繋がるからです。
これらの二つのレターは、政治的であり、科学的ではありませんが、主要メディアの殆どが繰り返し報道し、効果は絶大でした。(続く)