未消化な過去の記憶は、解決を望んでいる② 人はわからない
「その後、どうされていますか?
気になっています
差し支えなければ、連絡ください」
一通のメールから、20年前に別れた元夫の秘密を知ることになった。
事業家の元夫は裏社会のネットワークに繋がる人だった…。
✱
元夫については知らないことが多々あった。
結婚することは、相手の歴史と結婚するようなものだ。
元夫は一回り年上で、私とは再婚だった。先妻との間に二人の娘がいたし、事業を始めたのも先妻と一緒だった。
だから、後妻の私より親族、友人、周囲の人のほうが夫とはずっと付き合いが長いわけで、出会ったばかりの、あとから来た私が、夫のことを一番知らなかったとしても無理はない。
しかし、知人からのメールが切っ掛けになって、私の知らなかった元夫の歴史を知ることになった。
混乱している頭の中を鎮めるために、ここで書ける範囲で整理してみたい。
知人は、元夫から依頼されてやった仕事の少なくない金額のお金が未払いになっている、裏切られたダメージは未だに癒えないと言っていた。さらに知人は元夫を「詐欺師だ」と罵った。
そう言われると、そうかも知れない。
詐欺師は、もしかしたら元夫を知るためのキーワードかも知れない。
元夫は第一印象は非常にウケのいい人だった。
私が彼と初めて出会ったのは、色彩心理のセミナー会場だった。一年間をともに過ごしたメンバーと講師の先生から常に注目の的だった彼は、セミナーの最後に、先生から講師にならないか、とお誘いがあった。
私の友達にもモテモテで、夫に会った友達は「素敵な人ね」と皆んな口を揃えて言っていた。
男性にも女性にも好かれていた。
人を魅了するのが、ほんとうに巧かった。
決して計算している訳ではなくて、天性のものだと思う。
彼のような人を、私は後にも先にも見たことがない。
たっぱがあって、目鼻立ちがはっきりした日本人離れしたルックス、その辺に居ると目立つ人だった。おまけに人見知りも物怖じもしない立ち振る舞いで、初対面の人の懐に飛び込んでいくのも得意だった。
彼がキューバの音楽家と一緒に映っている写真パネルを今でもよく覚えている。
そのキューバの音楽家はコンパイ・セグンドという名前で、99年に映画にもなった「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」というバンドでギターとボーカルを担当した人。
映画は世界的に大ヒットして来日もした。
大阪厚生年金会館で「ブエナ・ビスタ・ソシアルクラブ」のライブがあり、夫と出かけた。
その帰りに、楽屋から出て来たコンパイ・セグンドを乗せたタクシーの後を、私達も別のタクシーで追いかけて、着いた宿泊先は大阪ヒルトンホテル。
そしてホテルのロビーで夫がコンパイ・セグンドと一緒に写真を撮ったが、この時の写真が件のソレ。
90歳の伊達男、コンパイ・セグンドとツーショットなんて、やるものだ。
言葉の全く通じない外国人と、一体どうやってコミュニケーションをとったのだろう。
夫はコンパイ・セグンドにすっと近寄り、コンパイ・セグンドは嬉しそうに写真撮影に応じた。
時間にして3秒ぐらい。
二人とも満面の笑顔。似合いの男同士。
一瞬にして夫は初対面の老音楽家の心を掴んだのだった。
私もコンパイ・セグンドとツーショット写真を撮ってもらったが、人見知りの私には笑ってくれなかった。
夫は人に取り入るのが本当に巧かった。
天才的に巧かった。
知人も私も、一番はじめは彼に魅了されたことには違いない。
この続きは次回。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?