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カツカレーは宇宙を救わないーためにならない京都ランチ紀行(2)

その日は朝から決意していた。
今日のお昼はカツカレーだ、と。

おそらく、誰かの会話の中から「カツカレー」という単語を偶然耳にしたのだろう。それから頭の中はカツカレーのことでいっぱい。午前の仕事が終わると、待ち遠しい昼がやってきた。

烏丸御池駅周辺なら『ごはんや』という店にカツカレーがある。挽き肉たっぷりのカレーに、ジューシーに揚げられた薄めのカツ。
足早に店に向かった。

ところが、やってしまった。

臨時休業

膝から崩れ落ちた。
私には特殊能力がある。
行きたいと思った飲食店が休みだったり、食べたいメニューだけ品切れだったり、ひどい時には閉店していたり…といった能力だ。長年私を苦しめている。

さて、どうしよう。京都の中心でカツカレーを叫ぶ思いだ。

ふと気づけば、昔、喫茶店のあった場所で、現在は行列のできるラーメン屋『麺屋 優光』の前に来ていた。

…ここにあった喫茶店のカツカレー、美味しかったなぁ。野菜ごろっとした甘口のルーに厚めの手仕込みのカツ…。

思い出に浸っていると、優光が珍しく空いていることに気づいた。並ばずとも入れそうだ。いつもなら迷わず入る。

しかし、今日という今日はカツカレーを食わねばだめだ。高ぶる思いがどうにもおさまらないのだ。

その時の心境を言い表すなら……

例えば、今、地球が悪者により大変な危険にさらされ、ひょんなことから、私が鉄のスーツを着て、アべンジャーズとして、敵と戦うことになったとする。

あと少しで宇宙が救えるぞ!という局面で、偶然「カツカレー」という言葉を聞いてしまったらどうなるだろうか。
おそらく私は戦闘を放棄し、食べに行く。カツカレーが食いづらいという理由でアイアンスーツも脱ぐ。怒ったキャプテンアメリカが敵より先に私を殴るだろう。

それくらい食べなければ収まりがつかないのだ。私のカツカレーの思いは募るばかり。

優光を通り過ぎた私は、今度はスパイスカレーの店『カマル』の前に来ていた。
メニューにカツカレーはないが、ここはあらゆる種類のスパイスカレーを堪能できる。カレー欲を満たすという点では良いチョイスだ。しかし、気持ちはおさまるだろうか。

その時の心境を言い表すなら……

例えば、今、言葉をしゃべる不思議な黒猫から「あなたはセーラー戦士なのよ」と言われ、月にかわって、おしおきする人になったとする。
変身するわよ!という局面で、偶然、「カツカレー」という言葉を聞いてしまったらどうなるだろうか。

おそらく私は、変身呪文を「ムーンカツカレーパワーメイクアップ!」と間違え唱えることだろう。丸腰で戦うことになってしまう。怒ったセーラーマーズが敵より先にハイヒールで私のことを踏むだろう。

それくらい食べなければ収まりがつかないのだ。私のカツカレーの思いは募るばかり。

『カマル』をスルーした私は、結構遠くまで歩いてしまった。仕事に戻らねばならぬ時間は迫っている。早くしなければ午後もカツカレーに思考を支配されてしまう。今日は展覧会用のテキストを仕上げねばならない。このままだとすべての語尾に「カツカレー」と付けた文章を提出する羽目になる。

ふと見覚えのない店の外看板に「カツカレー」の文字を見つけた。昼どきなのに誰も客がいないのは気になるが、渡りに船だ。

注文してほどなく、不自然なほど真四角のカツに具なしルーがかかった、かぴかぴご飯が運ばれてきた。不安を煽るタイプの見た目だ。それでも私はこれまでカツカレーに裏切られたことはない。期待をスプーンに込めた。

生煮えの玉ねぎとにんにくのすりおろし味のルーはびっくりするほどハーモニーを奏でていなかった。カツはこの世の悪意を固めたかのような成型肉の冷凍カツ。冷凍食品の躍進がめざましい今日において天然記念物である。

頭を抱えた。が、諦めなかった。
きっと食べ続ければくせになる系のシロモノだ、と。
しかし、私の舌は最後まで意気投合することはなかった。

……こんなことなら、優光やカマルに入ればよかった。いや、そもそもコンビニのカツカレーでよかった……。セブンのカツカレー…美味しいもんね…。なぜ…私はあんなムダな時間を…。

急に冷静になった私は、ひどい胸焼けを抱え仕事に戻った。
いやはやカツカレーとは恐ろしい食べ物である。最終兵器・カツカレー。

ちなみにその店はその後、いつの間にかなくなっていた。
これは私の能力のせいではない。

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