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すべての客を憎むアジアン料理の店  ーためにならない京都ランチ紀行(1)

私の働くマンガを扱う文化施設(ミュージアム)は京都のど真ん中、烏丸御池駅にある。観光地として乗り降りする人も多く、同時に京都随一のオフィス街でもある。ゆえにランチ激戦区だ。

そこにどういうわけか、埼玉民の私がかれこれ15年以上居座り、「うまい飯はねぇか~うまい昼飯はねぇか~」と牛の刻に徘徊している。
しかし、私には困った特殊能力がある。
行きたいと思ったお店が臨時休業したり閉店するという、なんの役に立たない能力だ。だから、徘徊は一層ひどくなる。ゾンビのようにさまよい、烏丸御池周辺を漂流する。お店が決まらず、時間がなくなり、結局コンビニのおにぎりに漂着、なんていう日もある。

が、そんな私でも推しのランチどころはある。個人的な推し京都ランチどころを趣味的に熱く語りたいと思い、noteを始めてみた。最初に言っておく。タイトルの通り、このランチ記録は全く「ためにならない」ことを。

さて、今回、紹介したいお店だが、アジアン料理のお店だ。アジアン料理店A(お店の頭文字ではないです。)は、ワンプレートランチを提供していて、ドリンクが飲み放題だ。お値段も1000円くらいで大変手頃である。

毎日だって行きたい位だが、毎日行けない理由がある。それは、「メンタルが整っているとき」でないと行けないお店だからだ。

初めて入ったのは5年前だったか。同僚3人で来店したが、「いらっしゃいませ」の声はおろかテーブルに案内される気配がない。奥のほうで店主の影が見えたので、営業中なことは確かだ。
勝手に座るスタイルなのかな?と思い、空いている席に座った。3人なので2:1に分かれ、隣り合ったテーブルをくっつけ、オーダーを取りに来るのを待った。

何分か待たされた後、不機嫌そうな店主がやってきた。そして開口一番、
「ちょっと!テーブル!勝手に動かさないで!」と怒鳴った。
「は、す、すみません~」私たちは急いでテーブルを元の位置に戻した。
当時はコロナウイルスもない時期で、周りに他のお客さんもいなかった。テーブルを30センチほど動かすのがそれほどだめなことか?疑問に思ったが、

もしかしたら風水的にものすごく計算された配置だったのかもしれない。

そう考えたら彼が怒るのも無理はない。だが、この店主の態度、この時点で山岡士郎なら即帰っているはずだ。

ピリッとした空気の中、私たちはさっさと決めオーダーした。店主は無言で厨房に去った。大声で歓談できるような雰囲気ではない。同僚Tさんが小声で私に聞いた。

「ランチの飲み放題ドリンクってどうなるんでしょうね?」

私はピンときていた。お店に入るとき、ドリンクコーナーが片隅に配置されていたから。おそらくセルフサービスだ。だが、私とTさんはそのことを店主に尋ねる気力をすっかりなくしていた。
美味しそうなジュースが手招きしているが、ジュース奪取に踏み切れない。ジュースにさほど興味がなかった同僚Kさんが見かねて店主に大声で聞いてくれた。

「ジュース、ここのを飲んでいいんですよね!?」

残念ながら結果は無視だ。Kさんの心も折れた。しかし、だめなら烈火の如く店主が怒るはずだからオッケーなのだろう。
気を取り直し、私たちは料理が来るまであらゆるトロピカルジュースを楽しむことにした。

ジュースを一通り堪能したところで料理が登場した。実に食欲がそそられる盛り付けだ。胸は高鳴った。
が、ここで思わぬことが起きた。今度は私がピンポイントで怒られたのだ。

「あんた、ジュース!もとの位置にちゃんと戻して!」

心当たりがなかった。テーブルの配置にこれほどうるさいのだから、ジュースの配置にも並々ならぬこだわりがあるはずと理解していた。つまり、風水的にマンゴーの隣はオレンジと店主の中で相場が決まっているはずなのだ。私としては尊重したい所存だ。

鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている私を睨み、店主はまた厨房に戻って行った。

『きっちり戻したはずだったが、マンゴーの隣はグレープフルーツだったか…?どこでずれたか。一体、何杯目でずれてしまったんだ…』

ぶつぶつと自問する私に、Tさんが勇気を振り絞るように「すみません。戻さなかったの私です・・・」と謝ってきた。
なんと私は冤罪だった。

ここまで来ると、塩対応の店主をいかにデレさせてやろうか、という気持ちになる。店主のとびきりの笑顔が見たくなった。

Kさんが言った。「さすがにお会計の時には嬉しそうにするんじゃない?」と。

なるほど。お店を営む以上、お金をもらう時というのはどんな店主にとっても喜びの瞬間のはずだ。ちょっと位はニヤっとしてくれるかもしれない。私たちはワクワクしながら、「お会計お願いします~」と言った。

が、期待は裏切られた。何度呼んでも店主が出てこない。ちらっと姿が現れたので、「あの、お会計・・・」とすかさず伝えたが、無視だ。聞こえていないはずはない。目も確実に合った。

その後、店主が奥で鍋を振るう影をレジで10分ほど見守ることとなった。

完敗だ。お金をもらうこの瞬間まで拒否されるとは。感じたことのない痛みを抱えながら、しおしおと仕事に戻った。

その後、被害者の会的に職場でこの店を話題にすると、他にもひどい目にあった人がいた。私は心の底から満足した。店主は私達だけにあの態度ではなかったのだ。つまり、想像するにすべてのお客が憎いのだ。

こんなひどい目にあっても、悔しいことに味は悪くない。いやむしろ美味しいのだ。だからついアジアン料理Aに足が向いてしまう。少女マンガで言えば、「大嫌いなアイツ、だけど気になっちゃう!え~ん悔しい☆」状態だ。

しかし、90%の確率で何かしら怒られる、あるいは無視されるので、メンタル強強の時でないと厳しい。ましてや遠方から来てくれた仕事関係のゲスト、あるいは友人に「ミュージアム近辺でランチできる良いお店知らない?」と聞かれても、絶対におすすめできない。
それでも行きたいという人がいたら声をかけてほしい。心身ともに万全の態勢であれば同行するし、嬉々としてご案内したい。
削られても問題ない程、MP(メンタルポイント)が溜まったら、あの美味しいアジアンプレートを食べに行きたいと思う。


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