フリーランス日本語教師の悩み①:復習に授業時間を使ってもいいか?
先日、Japan Foundationトロントの主催する、フリーランス日本語教師のオンラインミーティングで、お話させていただく機会がありました。
そのときに出てきたのが、レッスン中に復習をする罪悪感です。
既習事項が身についていないから復習に時間を割いてしまうけれど、お金をもらってレッスンをしているのだから、新しいことを毎回教えてあげないといけないのではないかと悩んでしまう、という声でした。
フリーランスで日本語を教えることの難しさのひとつは、生徒の自主的な学習が、日本語の上達のカギを握っていることです。
高校や大学で日本語を勉強しているわけではないので、成績もつきませんし、小テストや宿題を課したとしても、必ず勉強してくる生徒さんばかりではありませんよね。
さらに、生徒が子どもでも大人でも、学校、大学、仕事に毎日の時間とエネルギーを費やしている中で、週に1回、日本語のレッスンを受けている、という人がほとんどです。
毎日忙しいのに、周りに日本語を話せる人は全くいないのに、
それでも日本語が好きだから、日本に行きたいから、
Youtubeやアプリで、しかも無料で日本語を独学できる環境は整っている時代に、
お金を払って私といっしょに勉強を続けてくれる生徒たちには、感謝と敬意しかありません。
ヨガ教室に通いたいけれど、
Youtube見たら家でタダでできるし、毎週ヨガ教室に通う時間がとれないし…
といろいろ言い訳をしては行動を起こさない私に比べたら、
日本語を勉強している生徒さんの行動力も決意も、ずっと堅いわけですから。
私の今までの生徒の中にも、
覚えてこないな、また忘れてるな、
復習ばっかりしているなぁ…と、顔は笑顔で、心ではがっかりしてしまう人もいましたし、今もいます。
大学生の生徒で、試験期間になったらレッスンを中断して、
戻ってくるたびにいろいろ忘れているので、「てフォーム」を何度も何度もやり直した人。
曜日の名前を覚えてきてね、と言っておいたのに、
覚えた、と言いながらふたつくらいしか正確に言えない人。
以前は、先に進めないことにいらだちを感じていたこともありました。
しかし、最近は、少し気持ちに変化がありました。
フリーランス日本語教師のいいところは、
生徒に合わせてレッスン内容やレベル、学習の進度(はやさ)を自由に構成できることです。
ということは、同じ金額をもらっているからといって、
同じレッスンをすべての生徒にしてあげる必要はないのです。
受け取ったお金と交換するのは、
生徒さんが「できるようになった」事実と本人の実感、だと考えています。
家で単語を覚えてきたり、宿題をしたり、文法を復習したりする生徒には、新しいことをどんどん教えてあげたり、日本語での会話の時間を増やしたりすることによってアウトプットの機会を最大にしてあげます。
家で単語が覚えられなかったり、文法事項を忘れてしまう生徒には、
一緒に単語を覚えるためのフラッシュカードを使って、授業時間内に覚えられるようにしたり、
文法事項を使ったドリルなどで繰り返し練習する時間を多くとります。
受け取ったお金に対して、フリーランス日本語教師ができることは、
生徒が「できること」を増やしていくことではないでしょうか。
私の失敗例も紹介します。
高校生の生徒で、宿題はしない、自習時間はゼロ、
その態度は変わらないな、ということが早くから分かった生徒がいました。
私はそれを理解したうえで、新しい語彙、漢字、文法を、毎回、導入し続けました。
教科書を使っていたので、順番に進めていったのです。
レッスン開始から何か月か経ったころ、
何か月か日本語を勉強しているのに、この生徒が覚えたのはひらがなだけ、語彙も少ないし、できるようになった会話がない!
とふと気が付いたのです。
お金を払って勉強した結果、
いろいろ毎回教えてもらったけれど、
いざ日本人の人に会った時に、何も言えない、何も聞けない、
アニメや日本のコンテンツを見ても、あ、今の単語知ってる!と喜びを味わうことがない、
という状況に陥ってしまうことこそが、お金の無駄なのではないでしょうか。
それ以来、その生徒の授業の半分は、毎回同じことを聞いて、
間違えずに言えるようになっても、基礎の復習を繰り返しました。
今、何時ですか。今日は何月何日ですか。今日は何曜日ですか。あしたは何曜日ですか。ハロウィンは何曜日ですか。そのペンはいくらですか。
何を食べましたか。土曜日に、どこに行きますか。ともだちの名前は何ですか。何時におきましたか。アボカドが好きですか。アボカドは何色ですか。などなど。
大学進学とともに日本語の勉強はやめてしまったアニメ好きの彼女ですが、
いつかまた日本語に触れる機会があったときに、
あ、これ覚えてる!という瞬間に出会えたらいいなと思います。
みなさんは、授業中の復習について、どう思いますか?
自分なりの答えを見つけて、ストレスなく、楽しく授業ができるようになるように、
いっしょに日々工夫していきましょう。