怖くて怖くて絵が描けないのに、パステルが好き、の話②
逃げた、と言っても会社を辞めた訳じゃない。
好きでいる、という事から逃げた。
面白おかしく言おうとかじゃなくて、出会ってすぐ、ほんとに話すだけで全身の細胞がスタンディングオベーション!と思う程好きになってしまったのに、話せば話すほど彼の気持ちが分からなくて、怖くて怖くて聞くことも出来なくて。
それで。
私はなぜか、ただ彼を好きな気持ちを消す事に全力を注いだ。
今までの恋愛経験なんか何故か全部消え去ったみたいだった。
顔を見たらまた好きになる、声を聞いたら、まあるい背中とか後ろ姿を・くるりとした癖っ毛を見てしまったら、スパイスと石鹸を混ぜたような不思議な甘い匂いを嗅いだらまた好きになるから、とにかく近づかないようにした。
関わりも極力少なくしようとオフィス内を移動する時の動線も時間帯も変えた。
見なければ、聞かなければ、近くにいかなければきっと日に日に「好き」が薄くなって忘れられると思って、全力を注いだ。
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当時の自分を多少擁護するとするなら、シンプルに女好きのチャラ男だった、んだと思う。
そして私の好意は知ってて、その気はないけどチヤホヤしてくる事に悪い気はしないなーくらいの感じだったんだと思う。
彼女は2年はいないなーなんて言っていたけど、携帯依存で四六時中携帯を見てて、同僚が偶然ラインの通知画面を見て「女の子の名前の通知いっぱい出てましたよ」とかからかっていた。
噂なんてあてにならないし、真偽の程は定かでないけど、セフレが3人いるらしいとか、早朝車で女に送ってもらって出社してるのを見たとかをたまに耳にした。
私も最初は割と分かりやすく意思表示をしたけど、のらりくらりとかわされて、でも私が避けていると思わせぶりな言動をして引き戻されて、そのままあっと言う間に2年くらい経ってしまった。
そうこうしているうちに彼の転勤が決まり、そのまま消えてしまった。
私が切望したように、視界から消えたし、声を聞くことも甘い匂いが後ろを通り過ぎてハッとすることもなくなった。
続きます
kayo sean(カヨ ショーン)