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ロールモデル(1/2)

マガジン「積立草稿」・シリーズ「つぎの低い孤高」
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日常の色んな場面で「あの人だったらこんな時にどうするだろうか」と意識することがある。僕は、参考や指針にしている何十人かの人物リストが頭の中にあって、身近な人もいるし、明治時代の人、フィンランドの人、色んなロールモデルがいる。色んな側面で参考にすることによって勇気やモチベーションを作り出せたりもする。

ロールモデルというのは、生きていく上で手本となったり、「あんなふうに生きていきたい」と憧れたり見習ったりする人物例のことだ。「憧れ」や「目標の人物」みたいな心理は、人によってかなりバリエーションがあると思うし、そういう概念を持たずに生きていくことも当然可能だと思う。

10人ぐらいをロールモデルとしてうまく混ぜつつ人生の指針にする人もいれば、強烈に一人を目標にする人もいる。名言や武勇伝の表層だけを味わうこともあれば、様々な場面での考えや選択がそうなった背景や根源を理解しようとすることもある。人数も手法も色々ありうる。

ただ、「ロールモデル」と「憧れや目標」には、違いがある。「ロールモデルを持つ」ということが単に他人を参考にしたりするのと異なるのは、「この人を自分のロールモデルとして選択している」という決定を行っていることだろう。また、日々流れてくる情報を見て、誰かの行動や思考に感心したり真似したりするような断片的なものではなく、人物単位で参考にしていることもロールモデルの特徴だ。ロールモデルを選ぶ・決めるということは、何かを見て何かを思うということよりも積極性・主体性のあるアクションであるように思う。

言い換えると、「ロールモデルを持つ」ということは、「直接的な出会いや交流をしなくてもその人のことを解釈し、自分の思考の中に仮想的に存在させること」でもあると思う。自分の頭の中にその人のための固定の席が作られている感じだ。そんなものまったく役に立たないと思う人や、無しで生きていったほうが恵まれた人生を送ることができるって人もいるかもしれない。でも僕には大事な考え方だ。ロールモデルに補助として支えてもらって、自分の考え方をしっかりさせたり、独自性を導いたり、補正したり新たな要素を思考に取り入れていく。

かつて僕が受けた日本の義務教育や高校ぐらいまでの環境だと、自分の頭で考えず、とにかく常識や固定観念に従って生き方を決めていく人が多数派になる仕組みだった。生活の1つ1つの選択肢を、狭い世界での流行や規則や慣習だけで選んでいくことが多かった。自分の意思決定の中で、規則やムードが圧倒的に幅を利かせているのは、とても恥ずかしいことのように思えたし、世の中の構造の変化に対して受け身でいることしかできない。そこから脱して、自分で舵取りできるようになりたかった。イカダで漂うのではなくて、帆とか舵のついた船で進みたいという気持ちだ。でも未熟な自分の力だけでは急にそんなことはできないので、新しい友達とか、親の友達とか、映画の登場人物とかの、尊敬できる部分や見習いたい部分から「この人ならこうするはずだ」という力を僕はいつも借りてきた。ロールモデルという言葉は知らなかったが、それに近いことをしていたと思う。

そういった支えに頼っても、何かを選んだ結果で失敗したり、決めたことをうまく頑張れないということもたくさんあった。でも自分の責任と決断で自分の人生を築いていかないと、僕は嫌だと思っていた。納得できる、自分の価値観で築かれた自分の人生なら、失敗や挫折も、つらいけど自分の人生って感じがする。僕は遅かったような気がするけど、そうやってすこしずつ自分自身で考えて決めていけるようになったんだと思う。

たくさんの人からロールモデルに選ばれるような有名人や成功者には、裕福な生まれやエリートなど、恵まれた条件だった人も多い。昔の偉人なんかは、ほとんどそうだと言ってもいいかもしれない。自分と条件が違いすぎるから参考にならないと思う人もいるかもしれないけど、前提条件が違うことを加味した上で「何かが立ちふさがって、何かと連帯した」とか「3つの選択肢のうち、これを選んだ」とか分析して自分の人生に還元することができる。

また、目標にしている人物が何歳で何をしたとか、年齢が気になることは多い。でも、何歳で何ができるかとか、何年間で何ができるかということも、生まれや環境や時代でずいぶん変わる。たとえば両親が仲良くて自室のある子が100人、その逆の子が100人いて、5年後にどうなるか平均を取れば、有意差が出るだろう。だから時間に関しても前提条件の違いを考慮して、大雑把に「生老病死」ぐらいのスケールで参考にしていけば、ロールモデルとして機能しやすいと思う。幼稚な時期が終わり、体がどんどん老化していき、トラブルが多発するようになる。まだ自分が最後まで体験していないその波を、誰がどう生きていったのかは、とても良い予習になる。何にせよ、ロールモデルの多くは自分と前提条件が違うことが当たり前なので、それを念頭に置いておくといいかもしれない。

(2)につづく

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