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呼びかけと連帯

マガジン「積立草稿」・シリーズ「つぎの低い孤高」
シリース最初の文章はどれも全文無料なので興味があればぜひ

アメリカが大変なことになってる。いつまでも改善されない人種差別が問題の根底にあるけど、それだけではなくて広範囲に関連していて、すぐに理解するのは難しい。

メディアやSNSで色んな人がこれについて色んなことを言っている。連帯を求める呼びかけも多い。たくさんの人に知られること自体が、問題をいい方向に持っていけるかもしれないからだ。呼びかけは、人命や「破滅回避」のために鳴らされる大きな音のサイレンだと僕は思っている。

だからうるさくないといけないし、強引さもなければならない。死者が出ている緊急時で、色んな意味で災厄をおさめるため、最速で一人でも多くの人と連帯しようと必死におこなわれている呼びかけ。細かい議論や、連帯できない人の存在はとりあえず置いておいて、大きな音でみんなの場所に鳴らされる。それは趣味とかスタイルではなく、「機能のための必要性」から来ている。今繋がれて、今何かできる人が、すばやくネットワークできるためのサイレン。

僕は生活に余裕がなくて忙しい時期も多いし、迅速に何かに対応するのがうまくない。連帯を集める緊急の呼びかけが盛んに行われていても、救急車が通過するときのように、とにかくまず「それが緊急なんだ」ということを理解・注意する。僕は緊急の呼びかけが躊躇なく行われる環境を好むし、救急車に「うるさい!」とは言わない。

この問題に限らず、世界にはたくさん大変なことが頻繁に起こっていて、そのたびに「連帯の呼びかけ」が盛んに行われている。SNSが登場してからは積極的にこれが使われるようになった。テレビにお笑い番組が流れていて、急に緊急報道に切り替わるかのように、日常のタイムラインが塗り替わる。

内戦や空爆、災害や飢餓、何か大変なことが起こって、その現地では人が命を失ったりしている。また、新たに命を失う人が続々出る可能性もある。緊急の状態だ。緊急の状態にある土地から、悲鳴に近い形で呼びかけが始まる。その広がり方が1日早いか遅いか違うだけで何かが変わって、死ななくて済む人がたくさん生じたりするので、呼びかけは当然、文字通り必死なものになる。

どんな災いであれ、現地の人たちは恐ろしい可能性と向き合いながら、どこが危険で何が安全か、しなければならないことなどの順序を混乱しながら確認して生きる。大きな地震や台風での避難などを経験したことがあれば、なんとなく想像できるはずだ。とても忙しい。思うように動けない。情報も錯綜する。そんな中で、「部外者」たちが自分たちのことを知ってくれたり、加勢してくれることはとてもプラスの可能性になる。世界の全員に理解して連帯してくれなんて当然思わない。とにかく今、これから、助かりたいという気持ち。

人間が起こす災いも、人間の世界には多い。部外者の目線がなければ、その土地内の損得関係で問題が小さくされてしまったりする。部外者の目線は、他国の政権を批判したり、汚職や捏造や隠蔽をシンプルに指摘できたりする。だけど新聞やテレビも商売だから、現地の関心がないとニュースにならない。たとえばアメリカで起こる災いは、アメリカによって侵攻されている国の災いに比べれば、はるかに多く世界中で報道されやすいだろう。部外者に関心を持ってもらうというのは、重要なのだ。

自分たちが住んでいる土地で起こった問題を、呼びかけても誰も知ってくれなかったら。きつい目にあっている時に、閉ざされた中で、解決されずに放置されたら。どうだろう。誰もがいずれかの役割になって、いつもじゃなくても、すこしでも、何かをしていく必要がある。何かの役割が足りなければ、自分の役割ややることを変えなくちゃいけないかもしれない。救急車もサイレンも止まる車も救命医も患者も、全部僕たちなのだから。もし、人間たちが助かる必要を感じるならば、だけど。

僕は、特にこの数ヶ月間、多めにRacism的なものに接することになり、自分に向いてくるものもあった。できることは少ないし、知ってもらう大変さも感じた。僕は、かなり余力や勇気がない立場の人間として、自分の強くない立場を堂々とやっていくのも自分の仕事だと思ってる。呼びかけという緊急サイレンが聞こえてきた時に、何もしなかったり、「サイレン聞こえました」と言うだけだったり、20円だけ寄付したり。すこししか出来ないことを時々やって、連帯したくてもできない時も当然ある、そういう人間として生きている。

(おわり。今回のはちょっと特別編みたいな感じなので、全文公開に設定させてもらいました。)

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