1000字でまとめる『世界標準の経営理論』~ 1-5 情報の経済学① (第1部 第5章) ~
2019年12月に早稲田大学の入山教授が出版した『世界標準の経営理論』。出版早々に購入するも、面白そうな章だけつまみ食いした以降は、3年ほど本棚の肥やしとなっていた。しかし、2022年10月にマネジメントへの一歩へを踏み出す中で【経営】への関心が再び高まり、この機会に丁寧に読み直すことにした。
本noteは自身の咀嚼を主な目的として、各章の概要を各noteで "1000字程度" で整理すると共に、読む中で感じたことを記録する備忘録である。なお、今の自分にとって目に留まった章から順番に触れていく。
1.本文概要:情報の経済学①「悪貨が良貨を駆逐する」
✄『世界標準の経営理論』該当ページ:P95~P113 ✄
ーーー
この章から「組織の経済学」に入る。「組織」「組織・市場を構成する個人」に関して、SCP・RVBでは説明できない深い疑問に答えるのが、「組織の経済学」である。
今回触れる「情報の経済学」も完全競争の条件が出発点であるが、着目するのは「第5の条件」である。
《条件5》
ある企業の製品・サービスの完全な情報を、顧客・同業他社が持っている。
実際のビジネスでは、提供される製品・サービスの質や取引相手の情報が完全に分からないことも多いが、その場合にどの様な事態が起きるのか?については「アカロフのレモン市場」の例にて説明される。
■アカロフのレモン市場
レモンとは英語の俗称で中古車のことである。中古車は「その正確な品質情報が、買う側に分からない」。この様に、買い手・売り手の取引プレーヤーのどちらか一方だけが偏在的に特定の情報を持ち、もう一方が持たない状況を「情報の非対称性 (infomation asymmetry)」と呼ぶ。この時、営業マンだけが知っている中古車の本当の状態・価値のことを「私的情報」と呼ぶ。
この状況では、私的情報を持つプレーヤーが虚偽表示するインセンティブが生じる。結果として、虚偽表示するプレーヤーだけが市場に残りがちになり、これを「アドバーズ・セレクション (adverse selection:逆淘汰・逆選択)」と呼ぶ。
よく引き合いに出されるアドバーズ・セレクションの例は4つである。①就職市場 ②保険 ③融資・投資 ④企業買収
ーーー
より本質的・普遍的に応用できるアドバーズ・セレクションを解消するための理論として、経済学で提示されているのは、「スクリーニング」と「シグナリング」である。
■スクリーニング
複数種類の商品を提示したり、クーポン券を提供したりするなど「顧客に選択肢を与える」ことで、顧客が勝手にみずからの私的自称法に基づいた行動を取ってアドバース・セレクションが解消すること。代表事例はファーストフード店のクーポン。
■シグナリング
相手に理解されにくい私的情報の代わりとなる「わかりやすく顕在化したシグナル」を外部に送ることで、情報の非対称性を解消しようとするメカニズム。代表事例は就職市場での志望者の学歴。
2.本章に対する振り返り
「アドバーズ・セレクション」に近い状況は通常の職場でも可能性としては起こり得る。例えば、現場に直接接するメンバーと、メンバーの報告を聞くマネジャー間では、一定の "情報の非対称性" が生じる。本章で触れられた解消法は「スクリーニング」と「シグナリング」であったが、現場マネジメントではより状況に合わせた個別対応によって解消を試みている様に思う。
ーーー
例えば、「ビジネスは下りのエスカレーター」という様な言われ方をしたりもするが、"情報の非対称性" を始めとした状況によって、常に「アドバーズ・セレクション (逆淘汰・逆選択)」が各仕事の場面で働いていることも要因の一端であると考えると、改めて腹落ちする次第であった。「どのような逆淘汰が存在するのか?」を把握しておけると良いかもしれない。
ーーー
その上で、アドバーズ・セレクション (逆淘汰・逆選択) に贖うために、「本当の価値」に見抜く力を養う必要がある。分かりやすい額面の上に広げられている情報のみに踊らされず、その先にある実態を見抜いていくことによって初めて、自分のチームにとってより望ましい選択を行っていくことが出来る様になるのだと思う。
【参考資料】
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?