見出し画像

僕が彼女を殺しました

2019年5月に書いた映像脚本のボツ作品供養。途中で切れてます。もしも要望があれば続きを書く……かもしれません。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

僕が彼女を殺しました。

人物
 桐谷康助
 三浦菜津
 井上直人
 狭間竜平
 羽田涼子


シーン1 声だけ

  画面は暗いまま、声だけが聞こえる。

井上「桐谷康助、あなたが三浦菜津さんを殺害したんですね?」
桐谷「はい。僕が彼女を殺しました。」


シーン2 取調室

  桐谷と井上が向かい合って座っている。

井上「殺害の動機は?」
桐谷「彼女が僕のことを理解してくれなかったからです。」
井上「どんなふうに?」
桐谷「僕は彼女を愛していました。彼女も僕を愛していました。でも、彼女は僕のことを何一つ理解してくれてはいなかったんです。彼女は僕自身ではなく、僕の周囲を愛していました。」
井上「だから殺したのか?」
桐谷「彼女を殺せば、彼女は僕を愛していたときのままになります。」

  井上、黙ったまま立ち上がる。

井上「一旦、取調べを中断します。」

  井上、取調室から退出する。


シーン3 廊下

  取調室から出てきた井上に、狭間が声を掛ける。

狭間「お疲れ。どうだい、奴さんは。」
井上「どうしたもこうしたも…。そもそも、被害者の三浦菜津は桐谷康助と男女の仲ではないという証言の方が圧倒的で、三浦菜津と桐谷が二人で会ったのも事件当日が初めてだったようですし、二人の間にはほとんど何一つ接点が無いんですよ。」
狭間「だが自首してきたし自供もしてるんだろ? 送検しちまえば良いじゃねぇか。」
井上「そういうわけにはいきませんよ…」

  井上のケータイが着信を告げる。

井上「あ、失礼します…はい、もしもし…あぁ、羽田さん、何か分かりました? …はい…はい、すぐ向かいます。」
狭間「なんだって?」
井上「司法解剖の結果、出たそうです。あと、防犯カメラの映像も手に入ったって。」
狭間「うし、行くか。」

  井上と狭間、去る。


シーン4 井上たちの係の部屋

  井上と狭間が中に入ってくる。
  羽田、気付いて書類片手に立ち上がる。

羽田「お帰り。どうだった?」
井上「全面自供です。」
羽田「あら、良かったじゃない。…どうしたの? 浮かない顔ね。」
井上「いや、どうにも納得いかないんすよね。」
羽田「接点が無いってやつ?」
井上「はい。一緒に暮らしていた被害者の両親も、誰かと恋仲であるような素振りは無かったとおっしゃってましたし。」
狭間「まあ、これから解剖結果と防犯カメラ確認してけば、何かしら出てくるだろ。」
井上「…はい。」

  井上、羽田から書類を受け取る。
書類には「解剖報告書」と記されている。

羽田「監察医先生の話によると、ご遺体にはたくさんの擦過傷があったそうよ。で、この背中の大きな傷、幅広の刃物で刺されてるこれが致命傷。心臓まで達してるって。他に大きな傷も無いし。即死だったみたい。」
狭間「背中から一突き…幅広の刃物ってことは包丁とかか、揉みあった末に、ってよりは逃げた被害者を追いかけてグサッと…と、そんな感じか。」
羽田「ええ、死亡推定時刻は二十日の午前一時から三時の間。その二時間前の午前十一時に被害者の携帯に母親からの不在着信が入っているわ。」
狭間「ん? ずいぶんと心配性だな。被害者もう二十六だろ?」
井上「ああ、被害者の菜津さん、いつも十時には帰宅していたそうなんですよ。十時を回るときにはちゃんと連絡入れていたらしいです。」
狭間「ほー、最近の若い子にしちゃ、ちゃんとしてるんだな。」

いいなと思ったら応援しよう!

慧音
ご覧いただきありがとうございます。よろしければサポートをお願いいたします。いただいたサポートはクリエイターとしての活動費として使用させていただきます。