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LinKAge~凛国異聞 追想

楊禅は呆然とその顔を見つめている。
後三宮の最深部、女王の寝室へと続く長い階段の中腹にその男は居た。

凛国宰相凌羽はぬらりとその腰の刀を抜く。
「この先に行くなら・・・斬る」
そう言い放つやいなや階段から舞い降りたその身のこなしには重さを感じることがない、羽のように柔らかく地面に着地したその瞬間から悪寒を感じるほどの殺気を放ってくる凌羽。

「凌羽どの…っ!」不用意に近づいた楊禅に振り返るやいなや神速の一刀を見舞う凌羽、痛みを感じるまもなく腹から鮮血が舞う。

「がぁっ…!」咄嗟に刃が動く、凌羽の「本気」を雪よりも早く察知した刃が足を前に出した瞬間、すでに凌羽は距離を詰めている。

反応するより早く刀が刃の腿に突き刺さる。体制を崩された刃が体を倒した瞬間やっと雪が自体を把握する。

咄嗟に左腰につけた礫袋から一石摘み、刹那凌羽の額めがけて投げつける。が、熟練の剣聖は分かっていたかのようにそれを掴み取る。

楊禅と刃が左右からまるで生き物のように連撃を見舞う、それすらもわずかに首や肩を傾けるだけで避け、凌羽は斬撃を見舞っていく。

「・・・何だてめえ、舐めてんのか!」

刃が叫ぶ、既に何発も刀を受けているが、全て皮一枚、致命傷にならない程度の切り口、本当は初手で楊禅も刃も死んでいておかしくないのだ。それくらいの実力差があることはここにいる誰もがもう分かっている。

「別に殺したいわけではない、諦めろ、と言っている」

言葉が終わる前に雪が二発目の礫、これも額の前で凌羽は掴み取る。

「嘘だろ」
「娘、筋は悪くないのだろうが、素直がすぎるな」
「うるせえっ!」
「お前は双剣の良さを活かしきれておらん、右手と左手、どっちが何を出してくるかもう解っておる」

再度襲いかかる刃をいなして一刀を見舞う、殺気が増す、動けなくする気だ。体が硬直したその瞬間楊禅が叫ぶ。

「凌羽どの!一手ご指南・・・お願いする!」
「・・・虎や狼は稽古をせんのではないのか?」
「まだまだ未熟を感じましたゆえ・・・!」

裂帛の気合とともに斬りかかる楊禅、その剛剣をいとも容易く受け止め連撃を繰り出す凌羽、1,2,3…瞬くより短い瞬間に4発打ち込む。あまりの速さに気圧される楊禅に5発目が繰り出される、質が違った。
「ぬおおおおおっ?」
思わず楊禅が膝をつく、5発目は重かった、楊禅ですら抑えきれないほどの重い一刀。必死に支えようとしたときにふと体制が崩れる、その時には既に楊禅の方からは新たな鮮血が舞っていた。

雪は見ていた、このほんの数秒にも満たない戦いを見続けていた。礫は届かない、楊禅と刃は叶わぬ相手に必死に食らいつこうとしている。いま雪に出来ることはそれしかなかった。

「それでいい、外方の中でお前が一番優れているのはその眼だ、誰よりも遠くを見越し、夜目が利き、刹那を写し取れるその眼がお前の最大の武器だ、見ろ、全部見ろ、相手だって人間だ」

声が聞こえる。雪の耳に声が聞こえる。

「・・・牙?」

「今じゃねえ、あいつらが踏ん張ってる、本当に行くべき時まで力を貯めろ、見ろ、必ず機会はある」

鷲の声が聞こえる。

「あんたは私と同じ女だ、力じゃ男どもには敵わない、ならどうするかは教えたよね、強く、鋭く、早く、しなやかに、それは剣も礫も変わらないよ」

薊が教えてくれる。

切り伏せられて刃と楊禅が倒れる、その隙間、拳半分も無い隙間。雪が投げる必殺の礫、奥の手の一つ、二丁打。同時に2つの礫を放つ秘技、一手目を避けても二発目がその体を穿つ。

しかしこれも凌羽は反応する。一手目を受け止め投げ返してきた礫も雪は避ける、二撃目、これを刀で撃ち落とす。本物の化け物だ。

しかし雪には見えていた、投げた礫も、投げ返された礫の軌道も全て見えていた。空気が濃密に感じる。舞い上がる砂埃の一粒すらも見える。今まで見えなかったものが全て見える。

「雪・・・やめろ・・・」

血まみれで刃が叫ぶ。同じくして声が聞こえてくる。

「もう刃も楊禅もうごけねえかもしれねえ、行くのか?雪?」

いくさ、艮、私しか居ないんだ。

「強いぞ、相手は、それでも行くか?もう外方はお前しか居ねえんだぞ?雪、俺が教えた全部をぶつけても届かんかもしれん、それでもお前は戦えるか?」

解ってる巽。もうあんたも、艮も、きっと鉄も、みんなみんな死んじまったんだ、だから行くよ、私は戦う。もう会えないからじゃない、私がそうしたいから、私があの子を取り返したいから行くんだ。

「ならば機会を逃すな、勝負は刹那で決まる、お前がいくら追いすがろうが、凌羽に届くのは一撃がせいぜい、それも砂漠の一粒に等しい確率よ、全てを費やせ、何も残すな、何もかもこの一瞬のために注げ」

わかった、ありがとう漣、私は弱い、外方で一番弱い、だけど、負けない。

「残りは礫が三つに小刀が一本・・・」

確かめるように雪がつぶやく

「下がれ娘、諦めるならそれで良し」

「諦めるかぁっ!」

雪が裂帛の気合で叫ぶ、何だお前は、お前が私達を道具として使おうとしたんだろうが、お前の言うとおり私達は必死にここまで来た。全部失った。みんな死んだ。お前のせいだろうが、舐めるな、舐めるなよ外方を。

「何人犠牲にしてここまで来たと思ってる!ここで下がればアイツラに笑われる・・・外方者を・・・」

「よし、解った、行け雪、戦え、命を燃やせ、でもな、お前と刃が死んじまったら全部なかったことになっちまう、だからよ…死ぬなよ」

わかってるよ鉄、死にたくなんか無いよ。でもさぁ、私は腸が煮えくり返ってどうにかなっちまいそうなんだよ。

「舐めるなぁぁぁぁぁっ!!!!」

「・・・勝てぬぞ?」

「勝つさ、勝ってあの子と帰る」

感じる、鉄も牙も薊も巽も鷲も艮も、漣も居る。私と刃だけじゃない、死しても魂は此処にある。これは貴様と、我ら外方の総力戦だ。

「・・・お前ら」

刃が何かを感じ取ったかのように呟く。

「そうだな・・・長がそう言うならよ・・・やるしかねえよなぁ!」
「・・・面倒だが、ここまでくればもう道理じゃねえな」

呼応するように楊禅も叫び、立ち上がる。その眼は三人とも強く、鈍く輝いている。

凌羽は察知した、既に瀕死のこの二人を蘇らせたのはこの娘の言葉だ。そうか、これが新しい外方の長か。あの鉄がすべてを託した娘か。ならば、先に斬るべきは、この娘だったか。

4名の裂帛の気合が呼応する。全員の体が動こうとしたその瞬間。奥から響くのは鈴のような声色。

「うるさいのぉ・・・この子が起きてしまうではないか」

遂にその姿を見せた、凛国国主代理、白蓮その人だった。



・・・どうも、加東です。

去年上演した自劇団GAIA_crewの舞台「真説 LinKAge~凛国異聞~」からちょうど一年たとうとしています。

この作品はGAIA_crewで一番大掛かりな大作で、時間も金もめちゃくちゃかかった作品なのですが、演者スタッフ、そして愛してくれたお客さんの中に強く残っている作品となりました。

今回のSSはその最終盤、ラスボス凌羽と主人公雪、刃、楊禅の戦いのシーンをちょっと文章に起こしてみました。全編お芝居でみたいという方は是非劇団公式通販サイトでDVDを販売しておりますので、ご確認頂ければ!

https://gaiacrew.thebase.in/


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