最近聞いた「変わった話」
この話は私も又聞きというか、きちんと本人から聞いた訳ではないので細かなシチュエーションは不明です。
Sさんという理容師をしている方のお話。とある地方都市で商業施設に入っている理容店に勤務していた。
その理容店のバックヤード、所謂スタッフ休憩室兼備品倉庫があった。
サービス業というのは、スタッフが一斉に休憩を取ることはない。大抵は交代で休憩に入る。
Sさんが入店まもない頃、スタッフが休憩室に長居しない事に気がついた。皆、昼食もそこそこに部屋を出る。従業員駐車場のマイカーに戻る者、商業施設のフードコートで休憩する者。
やがてSさんの休憩時間が回ってきた。休憩室だけあって、電子レンジ、電気ケトルや給湯器も備えている。何なら仮眠出来るソファーだってある。何で皆ここで休憩取らないんだろ?
Sさんは朝寄ったコンビニで購入したおにぎりとカップラーメンを食べた。
お腹もいっぱいになり、Sさんは眠くなってきた。休憩時間はあと45分はある。ソファーに横になって少し仮眠をする事にした。
‥眠りに着いて15〜20分ぐらいした頃だろうか。何かソファーの周りに気配を感じる。Sさんは顔を覗き込まれているような、視線を感じた。
もしかして寝過ごした?他のスタッフが戻って来ないSさんを呼びにきたのだろう。そう思いSさんは目を開けた。
‥目を開けると顔から20センチ程の距離で何かがSさんの顔を覗き込んでいた。
灰色をした人型の何か。それの顔に目や鼻、口は無かった。目は無いのに視線は感じる。強いて言えば灰色の泥で出来た人型。全身が濡れているのかヌルヌルとひかっていた。
灰色の人型がSさんの顔を灰色の手で触ろうとした瞬間、Sさんは「うわぁ〜!!」と大声で叫んだ。
Sさんの叫び声を聞いて、店長が休憩室に飛んできた。
‥いつの間にか、灰色の人型は消えていた。
Sくん、大丈夫!どうしたの?と店長が心配そうな顔でSさんを見つめている。
Sさんは、店長!この部屋なんか居ますよ!
興奮気味に店長へうったえるSさん。
店長は、あ〜、Sくんも見たの?アレ。「どろにんぎょう」。
Sさんは聞き返す。「どろにんぎょう?」何だか訳が分からない。
店長は、Sくんさぁ、ドラクエってゲーム知ってる?ロールプレイングゲームの。あれにさ、モンスターで出てくるじゃない。「どろにんぎょう」ってヤツ。アレに似てるから、俺はそう呼んでる。
混乱した頭でSさんは聞いていた。店長は話を淡々と続ける。
この部屋で寝てると出てくるの。「どろにんぎょう」。特に何か悪さするわけじゃないから。とりあえずこの部屋で寝なければ出て来ないから安心して。と店長は、こともなげに言った。
Sさんは、どうりで他のスタッフがこの部屋に長居しないか理解できた。
結局Sさんは給料は悪く無かったので、この店でその後も4〜5年働いたという。
‥勿論、休憩室では絶対に仮眠をとらなかった。