持ち家ってなんだろう。
こんな話を聞いた。とある商社に勤務していたHさんの話。妻と二人の娘の四人家族。
地方から都会へ出てきて賃貸のマンションに住んでいた。Hさんの夢は土地付き一戸建て。
そんなHさんは頑張って働いて都会に土地と家を買う事が出来た。希望通りの家だ。
しかし、ここで転勤する事になってしまう。娘達もまだ幼い。ローンはまだ返し終わらない。
妻とも相談したが、頼る身内もいない都会で母子三人で暮らすなんて嫌だ、と言われた。
Hさんは妻と二人の娘を連れて転勤する事にした。何年かすればこの家に戻って来る事もできるだろう、そう思い建てた家は賃貸物件として貸し出すことにした。
しかし運命は無常で転勤生活は続く。なかなか建てた家に戻ることが出来ない。一ヶ所にとどまる事の出来ないHさん一家、とうとう海外へ転勤が決まってしまった。
妻にも相談したが、やはり皆で海外に行こうと結論がでた。
そんな転勤生活が続いているうちに娘達も成人し、独立して行った。娘の一人はなんとそのまま外国で結婚し、その国に住む事になった。
Hさんも定年を迎え、いよいよ転勤人生を終わらせる事が出来る、やっと自分の建てた家に戻れる
という事になった。
しかし建ててから30年近くは経過してしまった。もはや新築ではない。自分達が全く住めないまま家は経年劣化の為、いたるところが傷んでいた。快適に住むには補修が必要だった。
そんなHさん夫妻に仕事の話が来た。大学の学生寮で寮父・寮母として働きませんか?と。
そうなると一ヶ月の殆どを学生寮で過ごす事になる。
商社を定年したとはいえ、Hさん、まだ気力体力ともにまだ十分にある。寮父・寮母の仕事を受ける事にした。
Hさん夫妻は学生寮に住みつつ、自分達の休みの日は建てた家に戻る事にした。建てた家に戻り、空気の入れ替え・掃除をこなす。それだけで休みは終わってしまった。なぜか虚しい。
Hさんは妻に言った。一体俺は何のために自分の家を建てたんだろう?休みの度に換気と掃除に、殆ど住めなかった家に戻る。住んでなかったので
愛着も無い、いっそのこと、この家と土地、手放そう?と。
Hさんの妻も反対しなかった。何の思い出もない都会の自宅を維持管理するより、学生寮の仕事が終わったら生まれ故郷に帰ってアパートでも借りて暮らそうと言ってくれた。
というわけでHさん、家と土地を処分し、学生寮の仕事があるうちはそこに住んで、最終的には生まれ故郷に帰る事にした。
建てた家に住めない、そんな数奇な人生もある。