「電話」で思い出した二つの話。
前回、特殊詐欺の話を書いたんですが、それとは別に「電話」に纏わる二つの話を思い出したので書き出してみようと思います。
‥たしか私が高校生ぐらいの頃の話。その「電話」は毎回同じ時間・同じ曜日に我が家にかかってきました。
それは毎週土曜日の午前6時30分。タイマーがセットされているんじゃないか?と思う程同じ時間にかかってくる電話。
一番最初に電話に出たのはうちの母でした。
母:もしもし〜熊田です。
電話の相手:(名乗りもせずいきなり)あっ、シラトリさんですか?
と聞いてくる。こちらはハッキリと「熊田」ですと名乗ってるのに。
母:いえ、うちは「熊田」ですけど?
と言い返す。
電話の相手:シラトリさん、あのね‥
と相手も負けじと?話を続けようとする。
痺れを切らしたうちの母は、
母:あのね、おばあちゃん?(電話の相手の声から察するに高齢の女性だったので)、うちは熊田です!シラトリさんじゃないの。電話番号間違えてない?
と言い返した。電話の相手(以下、おばあちゃん)
は、
おばあちゃん:いえいえ、ちゃんとシラトリさんの電話番号にかけてるよ?
と言った。どうも話が進まない。母は根気強く、
母:じゃあ、おばあちゃん。シラトリさんの電話番号教えてくれる?
と「シラトリ」さんの電話番号を聞くことにした。
おばあちゃん:〇〇〇の〇〇〇〇ですよ。これがシラトリさんの電話番号。
と、おばあちゃんが読み上げた電話番号は我が家(熊田家の固定電話)の番号だった。
母はそれ、うちの電話番号!と思いながらも、
母:あのね、おばあちゃん。それうちの電話番号。シラトリさんの電話番号じゃないと思うの。もう一度確認してもらえないかな?
と、切り出した。どうにも納得のいかないおばあちゃん。暫くやり取りをした後、おばあちゃんはやっと電話を切ってくれた。
そんなやり取りが月に2、3回あって我が家ではそのおばあちゃんの事を「シラトリ」さんと勝手に命名していた。
勿論、そのおばあちゃんは「シラトリ」さんではないのはわかっていたのだけれど。
土曜日の午前6時30分のルーティーンとなってしまった「シラトリ」さんからの電話。内容は毎回同じ。あのね、シラトリさん‥から始まる会話。
何度も違うって言ってもわかってもらえない。
私が高校卒業するぐらいまでそのやり取りは続いていた。
その後‥あのおばあちゃんは本当の「シラトリ」さんと電話する事が出来たのだろうか?
今となってはわからない。
さて、もう一つの話。
私の前職の上司から聞いた話。
仮に田中さん(仮名)としておこう。
田中さんが大学生の頃の話。まだ携帯電話もそれほど普及していなかった時代なので、住んでいたアパートには固定電話を引いていた。
固定電話を付けてからまもない頃。一本の電話がかかってきた。
電話の呼び出し音がなる。電話を取る田中さん。
田中:はい、田中ですけど。
電話の相手:あ、田中さんですかー?わたしです、
佐藤(仮名)です。お久しぶりです!
やけに親しげな雰囲気で話す女性。佐藤と名乗る女性は話を続けた。
佐藤:田中さんどうしてるかなぁって思って思わず電話しちゃいました!懐かしいなぁ。田中君の声(いつの間にか君付けで呼ばれている)
田中:はぁ。佐藤さん?ねぇ‥ごめん、全然覚えてないんだけど?
全く思い当たる節のない田中さん。
佐藤:もうっ!ひどいな〜田中君!ほんと覚えてないの?まぁ、しょうがないか。実はさ、わたし高校生の時、田中君と同じ電車の同じ車両に乗っていたんだよ!‥ずっと見てたんだから。田中君の事。‥好きだったんだ、わたし。
田中:え?高校生の時?同じ電車の同じ車両に乗ってたの?
突然の告白で驚く田中さん。しかし‥冷静になって佐藤に伝えた。
田中:あの〜佐藤さん?だっけ。誰かと勘違いしてない?オレ、高校の時は電車通学してないんだ。
三年間ずっと自転車通学なんだけど!
佐藤:え?チャリ通?あ、その、えっと‥
あからさまにうろたえだす佐藤。電話の向こうで別の誰かとやり取りをしている声が聞こえる。
‥ねぇ!ヤバいよ!どうする?なんて声がする。
佐藤:え〜っと、田中君。ごめんちょっと電話代わるね!
慌てる佐藤に代わり、男が電話に出た。
男の声:おいっ!お前が田中か?よくも俺の女に手ェ出してくれたな!
田中:は?何だよ!いきなり。あんた誰だよ!
何か妙な話になってきたなぁ。と田中さんは思った。話の流れが全くもってわからない。
男の声:俺は稲垣(仮名)ってもんだ!ここにいる佐藤の彼氏だよ!テメェ田中、殺すぞ!
突然凄み始める稲垣。‥意味がわからない田中さん。
田中:あ?知らねえよ。あんたの女なんて手ェ出してねぇし!
何言ってんのコイツ?と思いながらイラっとしてきた田中さん。
稲垣:おい田中!今日午後6時に〇〇駅まで来い!話をつけようじゃねぇか!
田中:あぁ?わけわかんねーなぁ!オレ暇じゃねぇんだけどなぁ!
稲垣:おい田中!ぶっ殺してやる!ぶっ殺してやるよぉ!
興奮気味の稲垣。ますます持って分からない‥田中さん、このやり取りも嫌になって来たので、
田中さん:うるせぇな!切るぞ!
ガチャン!と電話を叩きつけるように切った。
‥その後、稲垣から電話はかかって来なかった。当然、佐藤と名乗る女からもかかってこない。
おそらく、電話での詐欺で美人局(つつもたせ)だったのかもしれない。もし、佐藤に会っていたら稲垣に恐喝され金銭を請求されていたのだろうか。
冷静な判断でトラブルを回避した田中さんでした。
‥でも、電話で「好きだった」って言われて悪い気はしなかったそうだ。同じ電車で自分の事を想ってくれている女子、そんなロマンスが高校生時代にあったらなぁ〜とぼやく田中さんでした。
因みに田中さんは男子校出身である。