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校長室のクモ

私が子供の頃に読んだ学校に纏わる怪談。タイトルも内容もあやふやですが、思い出しながら書きます。古本だったか、図書館で読んだかで、時代は1950〜1970年代頃かと思われる。これから書くのはほぼリメイクになります。当時の世相を考え、現代では好ましく無い表現がありますが、その世相を肯定する訳ではない事をお伝えしておきます。

Bくんが通っている小学校には、ある噂があった。放課後の校長室に大きなクモが出るという。何でも大人の男性の手のひらを広げたぐらい大きいのだとか。

Bくんは思った。そんなに大きなクモならば捕まえて標本にしよう、と。Bくんは掃除の時間に校長室の窓の鍵をこっそり開けておく事にした。
放課後、ここから中に入ろう。

放課後になり、殆どの児童が下校した小学校。
Bくんは計画通りに校長室の窓から部屋の中に侵入する。虫籠と捕虫網も持参した。

西陽が差し込む校長室。部屋のなかにあるのは校長先生の机と大切な物を保管する金庫、そして応接用のテーブルとソファー。壁にはトロフィーや歴代の校長先生の写真が飾ってある。部屋のなかはタバコの匂いで満ちている。職場でタバコを吸うのは禁じられていなかった時代、職員室にだって灰皿は普通に置いてある。流石に授業中にタバコを吸う先生はいないが職員室等で仕事をしながら喫煙するのはありふれた光景だった。

とりあえずBくんはソファーの後ろに隠れる事にした。暫くすると、校長先生の机の下からカサカサ、カサカサと音がした。

Bくんは息をころしながらそっと机の方を見る。黒い影が見える!確かに大きな「クモ」だ。大人の男性の手のひら程もある大物だ!

Bくんははやる気持ちを抑えながら、「クモ」を捕まえるチャンスを伺う。捕虫網をゆっくりと構え、「クモ」が動きを止める瞬間を待つ。

永遠にも思える時間が過ぎ、「クモ」は動きを止めた。いまだ!Bくんは「クモ」めがけて捕虫網を被せた。

やった!そう心のなかで叫びながらBくんは興奮した。捕虫網の中で「クモ」は必至に逃げようと抵抗する。校長室の床をガリガリと爪で引っ掻いてる。‥やけに大きな音を立てて引っ掻いてるな
そう思いながら、Bくんは捕虫網の中の獲物を見た。

‥‥それは「クモ」ではなかった。それは、人間の手だった。節くれだった太い指、血管の浮き出た手の甲。日焼けをしている肌にびっしりと生えている黒々とした剛毛。‥それは人間の「左手」だった。

その「左手」が捕虫網から逃れようと必死に床を引っ掻いてる。‥‥うわッ!Bくんは叫ぶ。思わず捕虫網を離してしまった。

捕虫網から抜け出した「左手」は素早く校長先生の机の下に潜り込んだ。反射的にBくんは卓の下を覗き込む。‥そこには何もいなかった。忽然と「左手」は消えてしまった。

Bくんの叫び声に気づき、誰かが校長室に入ってくる。‥最悪な事にBくんの担任の先生だった。
B!お前、校長室で何をやってるんだッ!!

Bくんは先生に事情を説明したが、全く信じてもらえず、こっ酷く叱られた。体罰が当たり前の昭和の時代、Bくんは先生から問答無用で平手打ちを喰らった。‥無断で校長室に窓から侵入したBくんに弁解の余地はない。

Bくんはジンジンする左頬をさすりながら、さっき「クモ」を捕まえた場所の床を見る。‥微かにだが、こそには何か硬いもので床を引っ掻いたような跡が残っていた。

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