こんな話しを聞いたよ⑦
私が昔通っていた専門学校の同期生だった大河内くんの話。今はもう会う機会が無いので、詳細不明。
大河内くんが友達数人と某山中にあるキャンプ場へ行った時の話。
季節は秋頃だったと聞いた。大河内くんは特別キャンプが好きな訳ではなかったが、大勢で騒ぐのは好きなタイプだったので、特に断る理由もなくキャンプに参加した。
皆成人しているので、当然バーベキューにはアルコールがつきものである。参加者は皆男性で、雑談をしながら陽が落ちるまでひたすらに呑んだ。
もともとアルコールに強い体質ではなかった大河内くん、酔いが回り少し眠くなったので焚き火を囲み酒宴を続ける友人達に、悪い、俺少し寝るわと言い焚き火から離れた場所に設置したソファーで仮眠を取ることに決めた。
大河内くんを除く酒宴の参加者は談笑を続けながらひたすら呑んでいた。その内の1人が、大河内くんの異変に気づいた。
寝ていたはずの大河内くんが上体を起こし、暗闇の空間に1人で話している。まるでそこに誰かが居るかのように話す大河内くん。
皆は大河内のやつ寝ぼけとんなぁ、と笑った。ひとしきり誰かと話したような大河内くん。再びソファーに倒れ込み、眠った。
夜も更けて、そろそろお開きにしようと皆はそれぞれのテントに戻った。大河内くんにもテントで寝るよう友人は促した。
明けて翌日。皆は昨日の大河内くんのおかしな行動をからかいながら、聞いた。
おい大河内、昨日のお前はウケたわ!お前よう寝ぼけたのか知らんけど、暗闇と話とったぞ!
すると大河内くん、キョトンとした顔で、いや、知らんおっちゃん来てたやん。俺らの様子みに来たって言うてたぞ。
友人達はざわつく。誰一人としてそんなおじさんは見ていない。
なぁ大河内、どんなおっちゃんやった?友人の人が尋ねる。
大河内くんは、いや至って普通のおっちゃんやったで。強いていうならもう秋口やのに半袖のポロシャツ着てはったぐらいかな、変なトコ、と言う。
もう一人の友人が更に聞く。大河内、どんな話ししたんや?
大河内くんは、酔いが回ってソファーに横になっていた所、近くの藪がガサガサしてそこからおじさんが現れたのだと言い、そのおじさんが大河内くんに聞いてきた。
なんや、兄ちゃんらキャンプファイヤーか?楽しそうやな。
大河内くんは答える。騒がしいてすんません。この近所に住んではる人ですか?と聞いた。
おじさんは、そや、この近所に住んどる。賑やかな声するなぁ思て覗きにきた。
そしておじさんは、この辺りはよう冷えるから気いつけてな、それと火の始末はしっかり頼むで!と言い、また藪の中に戻って行ったそうだ。
‥なぁ大河内、俺ら結構厚着やんな?なんでおっちゃん半袖のポロシャツなん?おかしいやろ!
大河内くんを含め、秋の山中は冷えるので厚着をしていた。
それにこのキャンプ場、けっこうな山奥やで。車でくる途中も村どころか民家もなかったやん!
‥大河内くんは誰と話していたのだろう。