月は地球の衛星ではない

幻冬舎ルネッサンスアカデミー連載コーナー「常識を問い直しましょう」第1回掲載

 我々は、子供の頃から、よく見なさい、そうすれば、よく分かります、と教わり、理科実験から社会現象まで、そういうものだと信じる様に育てられて来ました。ところが、思い込みは怖い物です。虹は7色と教わるので、虹をよく見れば見るほど、くっきりと7色が見えて来ます。しかも、各色は同じ幅に。教科書のプリズムでの白色光分光図がそう描いてあるから、それに合わせるのです。本当の分光結果を客観的に見れば赤と青の領域が非常に大きく、残り部分を橙、黄、緑が少しずつ占めています。波長は連続に変化しているので、どこでどう分けるのかは不明確なのですが、よく見れば見るほど間違ってしまう怖い例です。人間の目で色を識別している桿体細胞と呼ばれる視細胞には3種類あるのですが、RGBの定義に比べると、緑の中心は相当に赤よりです。日本人は昔は茜色、藤色、玉虫色・・・と膨大な色数を識別していました。それがニュートンが音階に倣って決めたとされる7色を輸入し殺風景なものになってしまいました。LGBTの旗は6色です。これは欧米では、日本に教えた後で7から6に減らしてしまったから。多様性も日本より少ないのかも知れません。日本古来の色識別感覚の喪失は日本文化全体の大問題です。虹に何故ピンクがないの?などという質問が当然の様になされます。日本では明度も彩度も全て取り込んだ色識別がありました。和算だけが優れた独自日本科学ではないのです。さらに、目の構造で集光レンズはどれか?という質問にはほとんどの人が間違って水晶体と答えます。集光は基本的に角膜でなされ、水晶体は焦点を合わせる微調整をしているのですが、水晶体の凸レンズ形状に騙される様です。
小学校で、地球は太陽の惑星で、月は地球の衛星であると教えます。月の満ち欠けから、日食、月食と全てこの概念に基づいて説明され、納得するのだと思います。月を観測しても、1日に1回、上って沈むことしか認識出来ません。なので、とても説得力のある嘘だとは気が付かないのです。地球は1年に1回、太陽の周りを回っています。つまり、1日に1度位ずつ移動するのですが、その速度は時速10万kmもの高速です。慣性の法則で、我々はこの移動速度を実感出来ません。そのため、どうしても「地球中心」で考えることになります。天動説は間違いだったと習うのですが、基本的に今でも天動説のままなのです。そこで、太陽の周りの月の軌道はどうなっているのか?これを正しく理解するには定量的な考察が必須です。よく見ても、よく考えても分からないのです。太陽と地球と月の3つの天体間の重力を計算します。お互いの質量をかけて距離の2乗で割ると、もちろん太陽と地球の間の重力が桁違いに大きいのですが、二番目は何と太陽と月で、地球と月はその半分位です。これでは月を地球の衛星とは呼べません。地球に住む人間のエゴ。地球と月は連星と呼ぶべき関係なのです。地球と月の重心は地球の内部になりますが、それが太陽の周りを回る。月は太陽に対して常に正の曲率を保ちながら一定方向に回っている。月は、地球の太陽の周りの移動方向に逆行することはありません。言葉だけではとても理解しにくいので、図で概念的に示します。実際には地球と月の距離は、太陽と地球(月)の400分の1しかないので、この図の太い丸い線の中を地球と月が一緒に動いているのです。子細に見れば、図の様な太陽からの距離の入れ替わりが年に12回起こります。月は地球の衛星であるという間違いも、小学校の教材や天文台にある太陽系の模型による刷り込みが原因です。そこでは、この図と同じに太陽と地球(月)の距離関係を全く無視しています。太陽の周りを地球が回り、その周りを月が回る(地球の移動方向との逆行が発生)という全くの間違い概念を子供の頭に乱暴にたたき込む。よく考えなさい、よく見なさいと言いながら、嘘の模型を提示する。これを理科の時間や科学館がやってはいけません。月を衛星と呼ぶのは、分類学の間違いの代表例とも言えます。地球と似ている火星には2つ衛星がありますが、とても小さいのです。そのため、火星の衛星と太陽の重力は摂動として扱え、火星の周りを回っているという描像が正しいのです。他の惑星は太陽から遙かに遠く質量も大きいので、同様に明らかに衛星と呼べます。地球の「衛星」の月だけが特別な存在なのです。

参考文献
ロゲルギスト、「第五 物理の散歩道」中の日月問答、岩波書店 pp. 154-170(1972)

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