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時雨の恋の唄2

鈴のような声の人に問いに俺はこう答えた。
「しがない学生のKとでも名乗っておこうかな。」
「…まるで夏目漱石の小説の人みたいね。」
安定のツッコミを入れる。今更だが声と話し方からして女性のようだ。
「まぁ顔も知らない相手に名乗るのもな。」
「…変わった人ね。」
「よく言われるよ。」
「ならわたしはかぐやと名乗っておくわ。」
「かぐやってあのかぐや姫だよな。何故に?」
「特に理由はないわ。強いて言えば平安時代の女の貴族は男の人もとい人に顔を見せないから今の状況にぴったりと思ってね。」
「そうか。…かぐやさんも雨宿り?」
「えぇ、と言ってもここにはよく来るわ。元々地元がここだし。何よりここが好き。」
「そうか…、一応俺もここが地元だけどここから結構離れたところが実家だからあんまりここらは知らないな。」
「そうなんだ。」
彼女はクスリと笑う。姿が見えないからか声で姿を想像してみる。…うーむ、なかなか難しい。たしかに声は美しく鈴のよう、話し方も少し変わってるけど面白い。性格はなんとなくわかったけど外見イメージが付かない。なんせ暗闇だからね(本末転倒)。つまりわからない!
そんなくだらない考えを膨らませるとかぐやさんは俺に質問してきた。
「そういえばKさんはどうしてここに?」
「俺はアルバイトの帰りに雨に降られてさ…、ここら辺で雨宿りするのここしかないし。んで世話になるからここの神様に雨宿りさせて下さい!って二礼二拍手一礼したんだよ。」
「ふふっ!なにそれ変なの!」
ツボりたい気持ちは分かる。人のいない神社でずぶ濡れになりながらお参りするとかどんな丑の刻参りだろうか。ましてやここには御神木がないためそんな事してる人が居たら速攻で通報される。なんせ住宅街とアパート群の近間だから騒音でわかってしまう。
「丑の刻参り?それとも願掛け?ふふふっ。」
「うるさいなぁー、いいだろう?無礼して祟られるよりは言い訳できた方がまだマシさ。」
「まぁ、それもそうね。」
そう言って笑うのを抑えようと咳払いをする。
「そういえばアルバイトは何やってるの?」
「接客だ。今日は本来18時上がりだったんだけどクレームのせいで長引いたんだよ。」
「クレームねー。ちなみにどんなの?」
「実はなー。」

彼女との話は意外に盛り上がってしまった。バイトのことやゼミの愚痴、更には恋愛についての討論もしていた。時計を見るとすでに22時半を過ぎていた。丁度雨も弱まり自転車ですぐに帰れそうな感じだ。
「そろそろ俺は帰るよ。かぐやさんは?」
「そうね…。ねぇ、またこうして会えるかしら?」
「さぁな。まぁ会えたらだけどな。」
「また会う時も雨の日でこうして姿が見えない感じで話しましょ?」
「…変わってるな。」
「否定しないわ。それに風情があるじゃない。」
「まぁいいけどさ。先に出るわ。かぐやさんは傘持ってる?」
「ないわ。」
「ならこれ貸すよ。」
俺は彼女に折りたたみ傘を渡した。
「いいの?」
「あぁ、女の子が雨に濡れて体冷やすのは悪いって言うしな。」
「そう…、ありがとう。」
「おう。それじゃあ、また。」
「えぇ、またね。」
俺は自転車に乗って帰路に着いた。

「また、会えるよね?」家路についた女は鈴のような美しい声で呟いた。
雨音にその呟きはかき消されて言った。

続く
#小説 #恋愛物 #雨

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