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【 草の響き 】 感想vol.055 @イオンシネマ シアタス心斎橋⑤ 21/10/11

21/日/ビスタ/監督:斎藤久志/脚本:加瀬仁美/撮影:石井勲

『海炭市叙景』『そこのみにて光輝く』『オーバー・フェンス』『きみの鳥はうたえる』といった、佐藤泰志原作の映画は全て観て来た。この流れからして観ない訳にはゆかぬ。という事で観賞。されど、原作は未読である。

ストーリーについて。東京で勤めていた和雄であったが、徐々に精神の病をきたし、妻と共に故郷である函館へと引っ越してくる。受け入れ難いことだが、どうにも動けなくなってしまった和雄は、昔からの友人である佐久間を頼りに病院の精神科を受診する。診断の結果は自律神経失調症。運動療法が効果的だとして、毎日のランニングが課せられる。函館の街を走る中、和雄は若者3人と交流を持つようになる。一人は、札幌から函館に引っ越してきたが、同級生と馴染めないでいるスケボーの上手い高校生。度胸試しに海水浴場近くの岩場から飛び込みをしないかと誘われているが、泳げないために市民プールへとでかける。そこでもう一人の少年と出会う。仲良くなった二人の元に、その姉も加わり3人はよく遊ぶようになっていたのだ。始めは和雄を追いかけるようにして走っていたが、次第次第に会話が生まれる様になる。

実に奇妙な関係性であり、現実的でないようだが、小説的な人物配置である。なので、観賞するにあたっては何の障害にもならないし、むしろ羨ましいとさえ思えてくる。だがやはり、佐藤泰志文学。とにもかくにも暗いのだ。瞬間瞬間は眩しく温かいのだが、精神病を患う主人公であったり、登場人物のそれぞれに不安や寂しさが見え隠れして辛いのだ。私は病院の世話になるほど精神を病んだ経験はないので、なんとも判じきれないが、筆者が精神病であるが故の感情の変化についていけない所があるのは致し方ないか。とは言えど、登場人物の感情の機微というものを上手く捉えて表現していたと感じられるし、なんやかんやあって東出昌大の世間の風当たりは依然として強いが、彼の役者としての存在感には目を見張るものがあることは、満天下に知れ渡る事実であろう。

北海道という場所には、札幌と旭川にしか行ったことがなく、函館には未だ足を踏み入れたことがない私であるが、映画で観た風景の数々は網膜に焼き付きなんだか懐かしい故郷の様にも映る。帰れる場所、帰るべき場所があることは嬉しいことなのか、はたまた辛い事なのか。決して希望に満ちた物語ではなかったが、草の響きの様に静かな揺らめきが私の内側から消えない。

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