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【 バクラウ 地図から消された村 】 感想vol.014 @梅田ブルク7④ 20/12/21

19/伯・仏/シネスコ/監督:クレベール・メンドンサ・フィリオ、ジュリアーノ・ドルネレス/撮影:ペドロ・ソテーロ

不条理な暴力。理不尽な殺戮。受けて立つのが、血の繋がりを超えた絆。

傑作やんけ。2020年私的ベスト・ワン!こう云うのを待ってたのよ。予備知識は無かったが、各方面から絶賛されていたので、これは観ておくべきかと思い、鑑賞。直感を信じて良かった!ブラジル映画はなかなか観る機会がなく、パッと思い浮かぶだけでも、『名前のない少年、脚のない少女』以来、観ていない様に思う。

この作品は、『シティ・オブ・ゴッド』の様なバイオレンスもの。なのだが、そうなる迄の見せ方が秀逸。「一体何の映画なの?」という疑問が付きまとい続ける。冒頭は宇宙からの視点で始まるし。「これはSFなのか?」と思っていたら、ブラジルの片田舎が映し出されて、高齢でなくなった女性を弔う為に、大勢の人々が集まっている。「じゃあ、土着の文化を描くカルトなのか?」と思い直すと、小型のUFOが飛んできて、「あれっ?」となる始末。これは珠玉。「なんだかわけがわからないよ」となる。構図の取り方も独特で、あまり見た事がない。カットのタイミングやディゾルブのかけ方が、どことなく古臭いのだが、妙な力強さがあり、引き込まれる。低予算映画の様な演出も相まって、全く予想が出来ない。正直、興奮。村の学校に通う子供の一人が、綾波レイのTシャツを着ていたのが、目に焼き付く。『エヴァンゲリオン』は地球の裏側にも届いていたのか。

音楽もプログレっぽくて、現代的でない。いつの時代の話を描いているのか明確にしない所が良い。確かに、村人はiPhoneを持っていたりするので、過去の話ではないのだが、生活の様子を見ていると、未来的な要素が少ない。時間軸から切り離された様な村の世界。この立ち位置がかなり重要なのだ。

観ていく内に、言い知れぬ懐かしさに襲われた。それは、この映画が「西部劇である」と、認識出来たからだ。「これって、セルジオ・レオーネやサム・ペキンパーの西部劇じゃん!」そう思うとしっくり来る。恐らく、監督も西部劇が好きなはず。いや、絶対に好き。ちょいちょい、レオーネやペキンパーっぽい画も出てきていたし。

ストーリーについて。ブラジルの片田舎にある「バクラウ」という村。近くにダムが建設されていて、自分達の生活用水は遮断されている。水を手に入れるには、給水車で運搬するしかない。村人がこんな生活を送っているのも、市長との不仲が原因。市長側も村人を説得しようと訪れるが、彼等は会話を持とうとしない。そんなある日、突如として村に不可解な出来事が頻発する。村がインターネット上から姿を消し、通信も遮断され、村の生命線である給水車が襲われる。滅多にない来訪者の到来。牧場からも馬が逃げ出し、その原因を探ると、そこには血まみれの死骸が転がっていた。それを皮切りに、村人達に恐怖が襲来する。

ダム建設を勝手に進める政治家と、土地に愛着のある者達の戦いと云うのは、日本以外にもあったのか、と感慨深い。前述のUFOは、実はドローンで、村人達の行動を監視する為に飛ばしていたもの。流石にここ迄の暴力行為はないにしても、「ブラジルだったらあり得そう」という、妙な説得力があった。謎の殺戮集団に立ち向かう村人達の姿は勇ましく、実際に、こんな状況が起きたとしたら、映画の様に戦うのではないだろうか。

不勉強で恥ずかしいが、配役はラース・フォン・トリアー監督作品でお馴染みにの、ウド・キア以外は全く知らなかった。むしろ、こんな映画に彼が出ているのが驚き。何れにしても、皆表情が力強く、恰好が良かったです。

年の瀬に良い作品に出会えた。刺激的で終始ドキドキしていた。やはりフィジカルな映画は良い。あっぱれ!

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