全然関係ないんだけども、猫の手も借りたいって言ったら「猫には足しかないじゃないですか」なんて笑われて、ちょ、お前マジかぁ……ってなった話する?

「ネコ。君はクビだよ」


「そ、そんにゃ~~~~」



 大手薬局チェーン、カンニャビスを解雇されそうになっている猫が一匹。名前はネコ。この世界において猫は一匹しか存在しないユニーク個体であるため、生物名が必然固有ネームとなる。



「だ、だってそんにゃ! 忙しいから誰でもいいから手伝ってほしいって……」


「君がいるといらない仕事は増えるうえに儲けがなくなっていくんだよ」


「そ、そんな事ないですって! ちゃんと利益出せてますにゃー!」


「帳簿を見てくれよ。この数字のどこを見て利益を出せていると言っているのか、説明してほしいもんだね」


「そ、それは……」



 損益が見事に仕分けされた貸借対照表にネコは耳を垂らし狼狽える。しかし、ここで退き下がるわけにはいかなかった。



「おねがいしますにゃーここを追い出されると生活が……」


「そうは言うけれどもね。こっちもこっちで生活があるんだよ。いつまでも役に立たないどころか実害しかない君を店頭に立たせておくわけにはいかないんだ? 分かるだろう?」


「お、お仕事はちゃんとやってるかにゃと……」


「そうだね! 毎度毎度シルバーバインでラリってお仕事してるね! 前後不覚のままで業務を行った結果利益はどんどん落ちてるし備品破損も増えてるんだよね!」


「そ、それは……」



「それに、ラリってる君が仕事やってると、うちが怪しいお店だと思われちゃうだろ? げんに今月に入ってもう三度も監査が入っちゃってるし、その時間営業できないし、火のないところに煙は立たないなんて言われて客足も遠のいちゃうし、いやいやこれは入浴剤なんですよ。なんて言っても一向に信じてくれないし……もうね。ちょっと諸々な理由で君を雇う事が無理なんだ……すまないけれどね」


「いやぁこっちも無理っす! ほんと、なんでもするんでここに置いてください! 置き続けてください! にゃー!」


「にゃーと言われてもね。駄目なもんは駄目。早く出て行ってくれ」


「そこを! そこを何とか! ワンチャンおにゃしゃっす!」


「ワンチャンもくそもないんだよ……もうね、あんまりしつこいと警察呼ぶよ?」


「こ、公僕を……」


「そういう言い方はやめなさいよ……そういうところもあるんだよ? 君はなにかと反社会的な姿勢を崩さないんだから」


「え? だって、その方がかっこよくにゃいっすか?」


「発想が中学生なんよ! ともかく出てけ! オラ!」



「にゃ、にゃー!」




 ネコは追い出されてしまった。当てなく彷徨うネコは隙を見てカンニャビスからかっぱらった小銭でワンカップを買うと、パン屋で配っている食パンの耳をコソコソと奪い、それを肴にベンチで一杯飲やるのだった。



「世知辛いにゃー」



 ネコは確かにカスだったが、それでも生きていた。命があった。産まれたからには生きねばならぬ。生きているからには働かねばならぬ。資本主義の根幹にある労働というシステム。それを実行できないという事は死ぬという事。ネコは今、社会から尊厳が否定され、自棄になっていた。



「もういっそ、出ちゃうか。星」



 それは酔った勢いの言葉だった。だが、酔っ払いの行動力を甘く見てはならない。諸兄諸姉らにも経験があるだろう。正常な判断ができなくなった泥酔者が制御の効かない暴走機関車となり、考えられない行為に及ぶのを目にした事が!



「よーし。思い立ったが吉日! いくにゃー!」



 ネコはキー差しっぱなしで路駐していた星間移動用ポットを盗み宇宙へ出た。この時点で窃盗罪と酒酔い運転罪が適用されそこそこの罪過となるが、そんなものを気にするような猫ではない。そもそも酔っているから脳内は無敵モードである。えいやと運転し宇宙へ飛び出、とある星へとやってきたのだった。



「空気がきれいだけども、砂しかないにゃー……砂、砂て」



 途方に暮れるネコ。その直後、声が聞こえた。




「あ! なんか生物おるやん」


「なんやあれ!」


「可愛さの化身」



 彼らは人間。ネコが着陸した星、地球に住む支配生物である。



「あ、なんにゃぁ?」



「なんかにゃーにゃー鳴いとるんやけど」


「持って帰ったろ!」


「可愛さの化身」


「にゃー!」



 こうしてネコは地球に居つき繁殖。猫として世界中に愛される生物となったのだった。




 え? 雌雄いないのにどうやって繁殖したのかって?

 

 

 異星間恋愛って、素敵ですよね。

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