すくないけれど、たくさんの、
息子がハンカチを買ってきた。
何も言わず、「ありがとう」とだけ書かれた付箋がそのまま貼ってあった。リボンも包装もない、いつも行くデパートのワゴンでひときれ幾らで売っているような、何の変哲もないハンカチ。
けれど、それでも、息子にしてみれば、十分に高級なものである。
月額工賃12000円。
それが、就労支援に行っている息子が月にもらえる金額である。
放っておくとお菓子やジュースばかり買うので、毎月五百円だけ渡して後は私が管理している(欲しい物があれば相談して購入の可不可を決めている)。その中からハンカチ代を捻出した息子を思うと、胸が締め付けられた。
(今日は、酢モツにでもするか)
ハンカチを片手に献立を考えた。
甘いものが好きなくせに、つまみみたいなおかずが好きな息子が喜ぶ献立を。
「ありがとね」
誰もいないのに、思わず漏れた息子への言葉。
せっかく買ってもらったハンカチが、少しだけ、濡れた。