遊んじゃいられない
筆を折った友人宅を訪ねると腹を重くした彼の嫁さんが茶を出してくれた。
最初は小さな西瓜程の膨らみに圧倒されもてなされていたが途中倫理を取り戻し「本当におかまいなく」と述べて部屋に戻ってもらった。そうして茶を飲んでいるとかなり経って友人がやってきたから、俺はまず「妊婦に接客させるな」と口を尖らせたら。しかし、「来る方が悪い」と反撃され返す言葉なく話題を変える。
「何故小説をやめた」
聞くまでもなかった。
友人の言葉は「子供ができちまったからだよ」である。
「望んじゃいなかったが股から出てくるならしょうがない。俺も遊んでられないから、金を稼ぐことにした」
俺は「おめでとう」と言って、話も半ばで友人宅を出た。俺のような人間がいてはいけないと思った。
俺と友人の歳は同じだ。しかし、俺はまだ何も生み出せていない。小説も子供も、何もない。
「遊んじゃいられない」
友人の言葉が、俺を締め付ける。