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本屋博のこと

 本屋博は2020年1月31日・2月1日の2日間にわたり、二子玉川で開催された40店もの書店さんが集まるイベントだった。

 僕がそこに足を運んだ理由は、京都・恵文社一乗寺店さんが出店していたことと、そのマネージャーである鎌田さんが登壇されるイベントがあったからだ。
 彼とはその一か月前に京都で初めてお会いしていた。

 2019年の12月中頃、僕は『ODD ZINE』vol.3をたずさえ、関東から関西方面に営業に向かった。都内を含め、ほぼすべて飛び込み営業のスタイルだから、遠出しても成果がなければ経理的には大きなマイナスだが、こういった無謀で衝動的な方法でしかやりたくなかったし、やれないと思っていた。
 誰かに頼まれていることではないし、利益を考えてZINEを出しているわけではない以上、自分にとって義務や仕事のような感覚が芽生えたら絶対に止めたくなってしまうからだ。
 京都入りする前日は大阪の書店さんを回っており、とてもありがたいことに、toi booksさん、Blackbird booksさん、本のお店スタントンさん、LVDB BOOKSさんの4店で取り扱って頂けることになった。
 どのお店も個性的なうえに、店主の方のお話もとてもおもしろく、そのまま大阪で一泊して、翌日京都に向かった。
 京都では唯一、CAVA BOOKSさんとだけはつながりがあった。プロデューサーである宮迫さんがフィルムアート社の方でもあり、僕がフィルムアート社のウェブマガジン「かみのたね」で小説『犬たちの状態』の連載を持っていたため、事前にコンタクトをとることができていた。

 ただそれ以外の京都でのツテはまったくなく、スタッフの鎌田さんがその日はお店にいらっしゃるという情報を得ているだけで、恵文社一乗寺店さんにも飛び込みで足を運んだのだ。
 鎌田さんは気さくに迎え入れてくださり、ZINEの取り扱いも承諾いただけた。色々と雑談を交わすうちに「ブックマート川太郎」に話題がおよび、『VOICES FROM THE AGES』を僕は説明した。それは、発表または発行された時期が同一の「映画のVHS」・「小説」・「マンガ」から4点をセレクトしてテーマごとにまとめたシリーズであり、僕がそれぞれ一点ずつ作成している商品だ。

ボイス1
ボイス2

(※これは「80年代後期」のシリーズで、テーマは「インディビジュアル」)

 これを鎌田さんが非常におもしろがってくださり、「いずれ一緒になにかやりましょう」と意気投合した。
 そういった経緯があったため、京都・恵文社一乗寺店さんが上京して出店される本屋博に行こうと思ったのだ。

 本屋博に出店されている書店さんの中には、京都・恵文社一乗寺店さんの他にも『ODD ZINE』vol.3を取り扱ってくださっている書店さんが多数あった。
 SUNNY BOY BOOKS(学芸大学)さん、BOOKS 青いカバ(駒込)さん、H.A.Bookstore(蔵前)さん、おへそ書房(武蔵境)さん、双子のライオン堂(赤坂)さん、toi books(大阪)さん。
 それ以外の書店さんも非常にユニークだった。少し歩いただけで素晴らしいイベントだということはすぐに感じ取れたし、その高揚感の中で何冊かの本を購入していた。
 書店さんたちのブースに隣接したスペースでは、トークイベントやライブも行われていた。一通りの買い物を終えたあと、既知の登壇者の方もいたため、トークイベントを聴こうと思ってパイプ椅子に座った。
 イベントがはじまった。その冒頭、本屋博実行委員長の北田さんが司会を務められていたのだが、彼が自己紹介の時に突然僕の名前を口にされた。「最近好きな作家は太田靖久さんという方で『ののの』というとてもおもしろい作品を書かてれいます」といった感じの紹介だった。
 僕は思わず手を挙げそうになるほど驚いた。彼とは面識がなかったし、単行本も出ていない僕の名前がこういった場で出たことに感激と戸惑いがあったのだ。
 イベント終了後、舞台を降りられた北田さんに声をかけると、「客席に太田さんがいらっしゃったのがわかったのでとっさにお名前を出しました。ただのファンです」と名刺をくださいました。
 その後、僕は京都・恵文社一乗寺店さんのブースに向かい、鎌田さんにご挨拶したところ、その一角で「ブックマート川太郎」を展開してもかまいませんよと提案してくださったため、急いで兄の店からTシャツや「たねねた本」や「VOICES FROM THE AGES」やオリジナルのブックカバーなど、持てるだけの商品を手にして二子玉川に戻った。
 お客さんの立場から急遽売り手の立場になったことに興奮しつつ、来場されたお客さんひとりひとりとコミュニケーションを交わした。
 売り手として参加しても本当に素晴らしいイベントだと思った。商品がほとんど売り切れたことだけがその理由ではない。
 お客さんと納得いくまできちんと対話ができる。これだけの来場者がいるのになぜか時間はゆったりと流れていて、まったくせわしなくない。
 とても寒い夜だった。
 ガレリアでは風が吹き抜けるため、なおさら寒く感じたが、その風景はあたたかい思い出として今も胸に残っている。




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