インドア派バンサイ!
半袖Tシャツで大丈夫という季節になってから<お出かけ>しなくなった。
秋の<お出かけ>に向けてへそくりを節約していることもあるし、男性更年期で気分も落ち込みがちで全てが億劫に感じることもある。一番の理由は人混みが苦手だからだ。
コロナ禍はよかった。どこに行っても空いていて、観光地も閑散として、映画館も寄席もガラガラで。今は違う。どこに行っても混んでいる。浅草も京都も映画館も寄席も酒場も海岸も電車も。引っ込んでいた人たちが街に一斉に出てきただけでなく、外国からもお客さんがう〜んと来ている。それなのに祭りまでやって芋洗いのようになって喜んでいる人たちがたくさんいる。インドア派としては理解に苦しむ。
隣町・鎌倉は言うまでもなく大混雑しているし、海開きして以降は近所のセブンイレブン前が海水浴客の待ち合わせ場所になっているらしく、ちょっと一杯のビールを買いに行くにしても、EXILE系男子とパリピ女子に阻まれる。そして運よく入店できても、ビールはぬるい。充填するそばから売れるので店内の冷蔵棚で冷えてる時間がないのだ。
海に向かうか海から戻ってきたハイテンションな人びとが占拠している道路を縫うように歩き、帰宅し、ビールを冷凍庫に入れる。リマインダーを35分にセットする。その35分の間に枝豆を茹で、ビールのあても2品作る。そしてテレビをNHK BS1にセットする。弱小球団エンジェルスにイライラさせられながら、大谷の活躍を見守る。これが最近の楽しみだ。
昼間から、多くは10時半から、野球の試合を見て、だらだらとビールを飲み、枝豆を口に放り込む2時間から場合によっては4時間は、全く生産性がない。ずっと見ていても大谷が全く活躍しないこともあるし、大谷一人が活躍してもエンゼルスが試合に負けることの方が多い。
子どもの頃は巨人ファンであったしが、大人になってからはどこのファンということもなくなり、野球中継をそもそも見なくなった。そのうち地上波で巨人戦さえ放映されなくなった。
それでもスタジアムに行って空の下でビールを飲むのはとても気持ちがいいので、都内にいた頃は神宮球場に、神奈川県民となってからは横浜スタジアムに年に一、二回行き、野球を眺めながらビールを飲む。それは楽しいことではあるが、野球を見ているのではなく、眺めているだけで選手もよく知らない。野球を見ているとは言えない。
子どもの頃はちゃんと野球を見ていた。スコアボートと同じメンバー表をケント紙で短冊に作り、テレビ中継を見て、動きがあるたびに短冊を移動させ、さらにスコアブックもつけた。自家製のスコアボードを広げている横で父がビールを飲み、巨人にホームランが出ると大騒ぎしてちゃぶ台の周りをぐるぐる走り回った挙句、ビール瓶を倒して私のスコアボードを汚す。私は怒って泣く。それぐらい野球を楽しんで見ていた。
今テレビで野球中継をやっていても見るのは日本シリーズぐらいだ。オールスターでさえ見ない。もともと高校野球は見ないから、私が見なくなったのは日本のプロ野球である。一方でMLBつまりメジャーリーグの試合は時どき見ていた。野茂やイチローや松井や多くの日本人選手の試合が中継される時には。しかし今ほどではない。
大谷がエンジェルスに入り、手術を終えて再度活躍し出した2021年から、時間さえ合えばエンゼルスの中継を見るようになった。もちろんそのきっかけは大谷の大活躍であるが、大谷を見ようとしているうちにエンゼルスという球団と選手たちのことも自ずから知ることとなった。今ではエンゼルスの先発メンバーを諳んじることもできる。メビン監督がヤンキーズ時代のジャッジのことを今も息子のように気にしていることも、いつ首にするのか持ちどうしい投手コーチや、GMやオーナーも、そして2023年にまたもや大谷を苦しめている故障者たちのことも。いつものレンドーン、そしてトラウトも。
エンゼルスを見ることは不条理との闘いだ。エンゼルスの守備陣は甲子園の高校球児より遥に酷く、リリーフ陣は言うまでもない。エンゼルスのバッターは二流選手であっても、大振りすることを好み、出塁した選手を先に進めるバッティングなど毛頭も考えていない。大谷の好投を無にすることも厭わない。大谷がドジャースにいたのならば、10勝でなく15勝しているであろう。大谷の忍耐力には感心するが、見ている私も忍耐を試される。弱小チームを応援するということは、そういうことだ。
と、ここまで下書きしたのは先週のこと。先週は8月1日のトレード期限に向けて大谷をトレードするしないでMLBに関するメディアは埋め尽くされていた。そして今日、エンゼルスのGMは大谷はトレードしないと明言し、ホワイトソックスから二人の有能な投手をトレードで獲得した。
そしたら、まあ、大谷も吹っ切れたみたいで、先発予定を一日早めることを提案し、ダブルヘッダーの第一戦に先発、1安打の完封を成し遂げた。115球投げ、1時間弱後に行われた第二戦で2本のホームランをぶっ放した! 言葉を失うほどの大活躍。千両役者であることを見せつけた。
惜しい。これがじつに惜しい。ダブルヘッダーは日本時間深夜2時に始まり、4時半に私が起きた時には完投を終えていた。2本のホームランは通勤中に打っていた。願わくば、私の休日に、生産性のないビールと枝豆の昼間に、その勇姿を見せてほしかった。それだけが惜しいけれども、これからプレーオフに向けて、またワールドシリーズでWBC以上の活躍を見せてくれるであろうから、まあ、いっか。
ね、オオタニサン。