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第26走者 杉本 流:スポーツにおける心理学的要素

今年のプロ野球も佳境を迎えています。ペナントレースは終了しクライマックスシリーズが始まりました。海の向こうでは大谷と千賀とダルビッシュがポストシーズンを日本人対決で争っていて、凄いことになっています。野球文化も、前走で川谷先生が書かれたように「日本の良いとこ取り」が如実に出ています。オリジナルの真似をしつつオリジナルに勝ってしまうこともある、日本らしさが出ているのかな。

川谷先生イチオシのジャイアンツも勝ち残っています。こないだリーグ優勝していたので「おめでとうございます」と声をかけたところ、「(君に祝われても)ちっとも嬉しくない」と返されてしまいました。先生曰く、私がジャイアンツファンではなく別球団のファンであることを知っているので、本音で褒めているわけではないとわかっている。つまり、「祝福」に喜びの感情が乗っていない。スピノザで言うところの「感情の模倣」が起きていないことが原因だそうです。なるほど、確かに私はジャイアンツが優勝してもちっとも嬉しくないし、喜んでもいません。お世辞とか社交辞令とかで返しただけですからね。

そんなエピソードもあったので、今回は創作物から離れた部分で書いてみましょう。主にスポーツで良く聞く言葉たちですが、皆さんいくつ御存知でしょうか?

①ジンクス(jinx)
本来は縁起の悪いもの、または出来事のことを指します。スポーツに限らず勝負の世界では、非科学的であるとわかっていても一般的に「縁起が悪い」と言われるものには手を出さないことが多いようです。

「2年目のジンクス」という使われ方があります。入団してすぐは通用しても、2年目には通用しなくなる選手が多い事から言われ始めたのでしょう。ただこれ、実は縁起とかではなく科学的に証明されています。

「ルーキー」である1年目は、相手が弱点などを知らないことも多いから通用します。ところが、活躍した選手は相手に研究されるので2年目には弱体化することが多いようです。ずっと同じことをしていても負けてしまう。プロの世界は厳しいですね。

尚、現代日本では「縁起の良いもの」でもジンクスと呼ぶようです。この使い方は日本だけのようで、ここにも日本人の良いとこ取り精神が出ています。明日は試合だからカツカレーを食べる、とか。監督がパンツを履きかえなかったら連勝したので、負けるまで履き続けた、とか。科学的根拠がないものも多数あります。

②スランプ(slump)・イップス(yips)
例えば1歳の子が生まれて初めて歩いたら…周囲は凄く驚き、喜び、ほめたたえます。でも、その子が5歳になって歩いても、もう周りは褒めてくれません。歩けるのは当然だと思われていますから。年齢によって「期待」されることが違うのは当然のことです。

当然のこと、普段通りのことをすればいいのに、できずに苦しむのがスランプ・イップスです。この二つの言葉は熟練したベテランに使う言葉です。初心者や未熟な人に使われることはありません。つまり、ある程度期待されている人が「期待を裏切る」場合に使われます。

別のエッセイでも書かれてきたことですが、期待と愛情と呪いは密接に関係しています(18~20走)。周囲もベテランには強く期待し(応援し)、その期待に応えてミスなくできていれば問題ないのですが、体調や精神状態などでいつもうまくはいかないのが人間です。そして、できないと責められるのはプロの宿命でもあります。

スランプは実力を一定期間出せなくなる状態で、穴にはまりこむという言葉が語源。疲労やコンディション不良によるものもありますが、精神的不調で長引くこともあります。そこには「ファンの期待に応えないといけない」という苦痛もあると思われます。

特定状況でのみおこってしまうのがイップスで、学術的には局所性(職業性)ジストニアという神経疾患に分類されます。アメリカのメイヨー・クリニックでの研究によると、すべての競技ゴルファーのうち33~48%がイップスの経験があり、25年以上プレーしているゴルファーがなりやすいとの研究結果が出ているそうです。イップスが原因で長いスランプに陥ることもあります。

どちらも、自分自身に対する期待を(体が)裏切る状態と言えるかもしれません。

③魔物・呪い
少しオカルトな話になります。ヒトは不可解なものには理由をつけたがるという心理特性があります。「できるはずのことがどうしてできないのか」をそのままにはできません。

できて当然の事ができずに勝敗が決したり、とんでもない偶然が起きたりすると、高校野球ではこれを「甲子園の魔物が出た」と表現します。実際は緊張場面に偶然が重なっただけなのでしょうが、一度言われ始めるとそれは次の年にも波及します。球児たちも意識するでしょうから、本来いないはずの魔物の存在を意識してしまうという事態に。このことを知ってしまえば、観客も選手もハラハラドキドキする場面で意識しない人はいないかもしれません。「魔物が出るかもしれない」と。

プロ野球でも似たようなことが起きます(信じられます)が、今年起きたこととして一つ。2024年パリーグのホームラン王に輝いた山川選手ですが、全くホームランが打てなくなった時期がありました。5月22日に楽天・ポンセ投手から山川選手は2本のホームランを打って33-0で勝利したのですが、なんとそこから7月2日まで1本もホームランを打てなかったのです。簡単に打てすぎて打撃フォームを崩したのか、スランプだったのかはわかりませんが、これまでできていたことができなくなったためにネット上では「ポンセの呪い」という言葉が出始めました。その時のポンセ投手の防御率が「6.66」という、オカルト界隈では悪魔の数字と言われるものだったことも呪いと言われる所以です。興味のある人は調べてみてはいかがでしょうか。

話は変わりますが、最後に一つ。26まで進んだ「リレーエッセイ」、ここで一旦終了したいと思います。そのかわり、次回からは「ラリーエッセイ」を開始いたします。簡単に言うと、奇数を川谷先生、偶数をその他の書き手が担います。川谷先生に向けてみんなで交代でボールを投げます。将棋で言えば100人将棋みたいな感じにしてみようかと。
私たちのボールに川谷先生がどのように返すのか、お楽しみくださいませ。

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