「を、歩道橋で」 分冊版(3)
著:カワセミオロロ
目の前に広がるタイルは、平坦に規則的に並びゆく。
目の前に佇む彼女は、いつかの私のように地面を眺めている。タイルではなく、アスファルトの床をジッと眺める。
なぜ、そんなに俯いているのか。通りすがる大人たちには響かない。
なぜ、そんなに悲しいそうにしているのか、わからない大人たちは叱咤激励を繰り返してきた記憶が蘇る。
遠い遠い記憶が鮮明に広がる。
右から左、上から下へ、流れるように淡々と過ぎ去る時間の中で私は目の前に現れた彼女眺めていた。
これまでのように、彼女も通り過ぎてゆくのだろうか。
そう、過ぎ去ってほしい。
「このまま無事に通り過ぎてほしい」
どこかに消えてなくなりそうなほど儚さがにじみ出ているように感じた。
そして、彼女は手すりによりかかるように、身体をそのまま歩道橋から押し出し、力を抜こうとしていた。
その瞬間に、私は選ばなかった。正しくは選べなかったのだろう。
とっさにこんなにも身体が動くとは思えなかった。
身を乗り出す彼女を取り押さえるように、抱きしめる。人嫌いの私が人を無条件に抱きしめている。
彼女は、暴れることもなく手すりから身体を離して、そのまましゃがみこんだ。
なんて声を掛けていいのか。少しばかり悩んだが、自分が声をかけて欲しかった言葉を選んだ。
「大丈夫。大丈夫。」
背中をさすって、彼女が大丈夫かどうかなんてわからないけれど大丈夫と声を掛けた。正しいかはわからない。
ただ、私が彼女ぐらい年頃の時、同じようなことをしたことがある。
大人たちは「構ってちゃんかよ」「めんどくさい」「恥」「世間知らず」「何か不満なの」叱咤激励を繰り広げた。
それが、とてもつらかった。あくまで「私は」だけど。
しゃがみ込み、俯く顔、タイルはぽたぽた溢れる彼女の涙で模様がついてゆくー。
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続く
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