新型コロナ後遺症患者の体内にスパイクタンパク質は長く残っているのか? →「残っています!」
前回の記事では、「mRNAワクチン接種者の体内にスパイクタンパク質は長く残るのか?」というタイトルで、Clinical Infectious Diseasesに掲載された論文を紹介し、14日目にはスパイクタンパク質そのものが検出限界以下になることを解説しました。
では、mRNAワクチン接種者ではなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者、特に『Long COVID』と呼ばれる長期的な後遺症を抱える患者さんの体内で、スパイクタンパク質は、どのくらいの期間残っているのでしょうか?
ちなみに、世界保健機関(WHO)は、COVID-19患者の約4分の1が診断から4~5週間に渡って後遺症を経験し、約10人に1人が12週間後もその後遺症が続いていると報告しています。
今回は、前回のmRNAワクチン接種者のスパイクタンパク質の量を調べた論文と「同じ研究グループ(ハーバード大学)」が「同じ手法」を使って調べた論文がありますので、そちらを解説します。直接的なデータの比較として最適でしょう。
前回の論文と同様、『Single-molecule array(Simoa)』と呼ばれる手法で、COVID-19後遺症(Post-acute Sequelae of COVID-19, "PASC")患者37人と、PASCとは診断されなかったCOVID-19患者26人の血漿サンプル中のS1サブユニット、スパイクタンパク質(S2サブユニット)、ヌクレオカプシドタンパク質の濃度を継時的に定量しました。赤色の丸がPASC患者、水色の三角がCOVID-19患者を示しています。横軸の単位は「~ヶ月」です。
その結果、PASC患者の約65%でS1サブユニット、スパイクタンパク質、ヌクレオカプシドタンパク質のいずれかが数ヶ月間に渡って検出されました。また、この3種類のウイルスタンパク質のうち、スパイクタンパク質(S2サブユニット)は、COVID-19患者からは検出されませんでしたが、PASC患者の60%で最も多く検出されました。
前回の記事で解説したように、スパイクタンパク質(S2サブユニット)は『膜タンパク質』ですから、mRNAワクチン接種者の血中からはほとんど検出されません。
一方、PASC患者の血中からはスパイクタンパク質(S2サブユニット)が多く検出されました。これはウイルス表面側の膜に挿さったもので、『ウイルス粒子』の存在を示していると考えられます。
したがって、PASC患者の体のどこかに、ウイルスが長期間潜伏している細胞があるはずです。血管系、消化器系、神経系…、様々な可能性が考えられるでしょう。
コロナ禍の発生当初、SARS-CoV-2は、高病原性鳥インフルエンザウイルスと同様、『Furin切断配列』を含むスパイクタンパク質を持つため、全身に感染して重篤な症状を引き起こすことが想定されていました。
しかしながら、現在、感染してもほとんどの場合、無症状か軽症であることは、周知の事実でしょう。
ただし、SARS-CoV-2の持ついくつかのタンパク質は、ウイルスに対する生体防御機構の要であるインターフェロンの産生、およびその働きを強力に抑えることが知られています。
インターフェロンは免疫力を高める働きがある一方で、発熱や悪寒などの風邪の症状を引き起こします。その働きをSARS-CoV-2の持つタンパク質が抑えることで、症状が軽く見えてしまっている可能性が考えられます。
したがって、私の持つSARS-CoV-2のイメージは「羊の皮を被ったオオカミ」です。羊になるかオオカミになるかは、感染者個々人の体質・免疫力次第でしょう。
この『二面性』こそが、SARS-CoV-2の最大の特徴だと思います。
SARS-CoV-2は、従来のコロナウイルスにはない感染力を高める『Furin切断配列』を持っているため、『SARS-CoV-2=人工ウイルス説』もまことしやかに囁かれていますが、私は、このような奇妙なウイルスに感染しない、あるいは感染しても体内で増殖させないことに越したことはないと思います。
以上。
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