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その場しのぎの嘘は、いつかバレる。

情報提供いただいた内容についてです。黙って見ていられませんでした。

K氏は、SARS-CoV-2のゲノムには、スパイクタンパク質の前後に『BsaI』という制限酵素で切断される配列(=制限酵素サイト)があり、スパイクタンパク質を『カセット』のように自由に組み換えられるようになっているため、「SARS-CoV-2は人工ウイルスだ!」ということが言いたいようです。

制限酵素BsaIを用いた遺伝子組換えの概略

補足)理解するには高度な専門知識が必要になりますが、Type IIS制限酵素に分類される『BsaI』を用いた遺伝子組換え技術については、こちらで詳しく解説されています。↓(ウイルスに限らず、幅広い分野で利用されています。)

生物工学会誌96(1),20-24,2018
シームレスクローニング法 ~古典的な制限酵素と DNA リガーゼを用いないクローニング~

本橋 健
https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9601/9601_yomoyama.pdf

まずは、SARS-CoV-2のゲノムに存在するBsaI制限酵素サイト周辺をもう一度詳しく見ていきましょう。(相手の情報の精査は大切です。)

Tony VanDongen氏のツイートの画像を引用していますが、SARS-CoV-2ゲノムには、先頭から数えて「17972番目」と「24102番目」の塩基の2ヶ所にBsaI制限酵素サイトがあります。したがって、赤色の矢印で示した部分が『カセット』として機能する部分になります。

赤矢印は、BsaI制限酵素サイトで挟まれた領域を示す。(画像:https://twitter.com/tony_vandongen/status/1566565068745105409?s=46&t=imicT0vYFkamyN2deizrSg)

これを見れば、K氏がデタラメを言っていることがすぐに分かるでしょう。
スパイクタンパク質をコードする遺伝子(Sと書かれた緑色の四角)は、「21563番目」から「25384番目」の塩基まで、です。
BsaI制限酵素サイトで切り出される配列(17972~24102)には、完全長のnsp14(18040~19620), nsp15(19621~20658), nsp16(20659~21552)と呼ばれる3種類のタンパク質が含まれる一方で、スパイクタンパク質はその全長の3分の2しか含まれません

BsaI制限酵素サイトで挟まれた配列とスパイクタンパク質をコードする配列は大きくズレている。(画像:https://www.nature.com/articles/s41586-020-2286-9/figures/1)

したがって、スパイクタンパク質は1273個のアミノ酸から構成されますが、その後半部分のN856(スパイクタンパク質の先頭から数えて856番目のアスパラギンの意)やQ954などに変異を加えることはできず、オミクロン株を作ることはできません
将来的に、新たな変異ウイルスを作る場合にも困ることになるでしょう。

赤文字は、オミクロン株のスパイクタンパク質に特徴的な変異を示す。(画像:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/jmv.27526)

以上のことから、K氏の言う「BsaIを使うとスパイク蛋白部位だけ切り出せる」は、全くのデタラメであることが分かっていただけたかと思います。

BsaI制限酵素サイトは先頭から〇〇番目にあり、スパイクタンパク質は〇〇番目から始まり…というのは、おそらくコロナウイルス研究者でもパッとは出てこないでしょう。
その場ですぐに確認できない自分にとって都合の良い偽りの根拠を出すことは、議論において最大の障害になります。科学者であるならば、決してやってはいけません。(ただし、Twitterが「議論の場」であるかどうか分かりませんが。)

確かにK氏の言う通り、スパイクタンパク質の直前と直後にBsaI制限酵素サイトがあれば、人工ウイルス説を主張するのに十分な根拠となるでしょう。
しかしながら、そうはなっていませんでした。

変異ウイルスの作製に理想的な制限酵素サイト

他にも言いたいことは多々ありますが…、取り急ぎ以上。

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