お題ショート:貴方へ。
今回は、お題ショートに挑戦して見ました。
稚拙な文章ですが、温かい目で読んで頂けると嬉しいです。
風が頬を撫でた。咲きかけ大樹の枝が蕾のせいか、たわんでパートナーの顔を隠す。微笑みを湛え、はらりと舞い散った。
あの人と出逢ったのは三年前のちょうどこの頃で、桜の咲き乱れる晴天の日だった気がする。まだ少し肌寒く感じる中、鮮やかな蒼のニットに身を包み、木陰に佇んでいた。もしかしたら、貴方の爽やかな笑顔のせいで恋であると勘違いしているだけかも知れない。少なくとも貴方の笑顔が輝いて見えたのは事実である。性格に惚れてしまうのにそう時間は掛からなかった。恥じらいながら話す貴方とお互いの話をして、時間を共有し合うのはとても楽しいひとときだ。だが、そんな日々も長くは続かない。そんな事は何度も聞いていた。しかし、まさか自分達に起こり得るものだなんて一ミリも思わない。いや、思いたくなくてずっと見て見ぬふりをしてしまっていた。たかが、本の中の物語なのだ。空虚な自信だけが空の部屋にこだました。自分たちなら、どんな困難が待ち受けようとも無敵なんだって。
ー万朶症候群ー(ばんだ)
無機質な室内に静かに響いたその声を聞くなり、何も入って来なくなってしまった。医師の他看護師が五人、出入り口で立っている。紙をこちらに差し出して何か説明をされているようだがそんな事を聞いている余裕など無く、俯いて意味を噛み砕こうと一生懸命頭を働かす。背中を看護士らしき人が寄り添ってくれてさすっているようだが正直一人にして欲しかった。何枚か書類をまとめてもらって、大きな自動ドアから一人、手ぶらで出てきた。身体が怠いのはいつもの事だったが、更に増して怠い気がする。
書類によると、万朶症候群とは腕が花々に覆われてしまう病だという。万朶とは多くの花の枝や多くの花々を表す言葉で、寄生した花々は患者の生気を元にして活動する。花の種類は人によって様々らしい。初期症状としては不自然な体重増加、鬱等がある。花の重みにより、身体が怠く感じる。腕を覆い尽くす頃にはもう、患者の寿命は尽きてしまうと言われている。発症原因は不明であり、治療方法も確立していない。まさか、自分がこんな悪霊に取り憑かれるなんて。ただ単純に信じられない、理解が追いついていない。今日はもう、休もうと思う。連絡を入れるべくスマホを開くと貴方から何かきていた。そうか、いつも心配してくれているパートナーにも……。
落ちゆく涙で視界の不明瞭な中打ち込む。貴方が好きだった、和歌に乗せて。
あらざらむ この世の外の 思ひ出に
今ひとたびの 逢ふこともがな
お題:病、和歌、ジェンダー
※出来る限り、ジェンダーフリーに即した表現にしたつもりです。
不快に思われる方がいらっしゃいましたら深くお詫び申し上げます。
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