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逆説の絵本師 〜ETV特集『五味太郎はいかが?』

 前回の日記では、映画『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)』を立川「シネマ・ワン」に観に行ったことを綴った。

 鑑賞後にじわじわと来る映画への感慨やひさびさに訪った善し悪し両方の思い出がある彼の地への懐かしさとちょっと来なかった間に変貌したいくつかの事どもに様々な思いを馳せていたのだが、つづめて言えば、
「ジャズとは?」
 ということに沈思黙考していた。
 単なる音楽ジャンルとしてだけではなく、〝精神(スピリッツ)としてのジャズ〟。

 そして今この日記を綴りはじめてあらためて気づいたのだが、そういえば立川という場所も、かつては「ジャズの街」だった。
 言うまでもなく、進駐軍そして米軍基地の街。

 俺自身はその頃の風景は知らないのだけれども、ブラタモリ的に注意深く観察をするとそこここに往時の名残があり、映画鑑賞後にコーヒーを飲んだ、俺が通っていた頃にはまだ無かった「GREEN SPRINGS(グリーンスプリングス)」という昨年2020年4月開業の大規模施設もかつては進駐軍の駐留地であり、80年代に大規模な再開発が行われるまでは米軍基地があった場所だ。

 本論に入る前の余談が長くなって申し訳ないが、10年ほど前までJR立川駅北口からほどないビルの地下に『潮《うしお》』というオーセンティックなバーがあり、ひところ足繁く通っていた。
 そのオーナーバーテンダーの通称「トミーさん」(日本人)は進駐軍時代に基地内のウェイターからキャリアを重ね、俺が通いはじめた頃にはバーテンを60年以上も続けているとのことだった。ちなみに、昭和元年だか2年だかのお生まれ。

 そのトミーさんもすでに鬼籍に入り店も無くなってひさしいが〝初めての来店〟時に俺が日頃から――会社でも――手結びのボウタイ(蝶ネクタイ)を締めていることを気に入ってくださり、お客様からいただいたという銀座はネクタイの老舗『田屋』のボウタイをくださったのは、俺の半生の大切な思い出の一つだ。
 その時に店のいちばん目立つところに飾ってあった、映画『カサブランカ』のポスター(もちろん、米国版)の鮮烈なビジュアル含め。

『潮』とトミーさんについてはまたいつかしっかりと稿を改めたいが、つまるところやはり俺には、「ジャズ」というものが避けては通れない、大きな要素の一つなんだろうなということだ。

 さて、本論。

 そんな1日の締めくくりに、ETV(NHK教育テレビ)で23時から、
『五味太郎はいかが?』
 というインタビュー・ドキュメンタリーが放送されることを知り、録画しつつ追っかけ再生で観た。

 あらためて紹介するまでもなく五味太郎先生は『きんぎょが にげた』『みんなうんち』『さる・るるる』など、独特な世界観……というか切り口と絵柄で、こどもたちはもちろんのこと我らオトナたちにも世界中にファンが多い絵本作家だ。

 俺は子育て中に五味先生の絵本と出会ってやはりファンとなり、当時の家庭とは袂を分かたってひさしいのだが、未だに上記の絵本は当時のものそのものを手元に所有している。

 が、この番組で五味先生のお姿や声には初めて触れたのだけれども、これがまたなんとも〝変〟な人でねえ(笑)

 詳細については再放送やオンデマンドなどでご覧いただきたいとして、この番組中で五味先生に感じたこともまた、
「ジャズ」
 だった。

 先生がジャズ好きかそうでないかは預かり知らぬところだが、映画「ジャズ喫茶ベイシー」のマスター菅原さんやその周りの人々と、同じにおいを感じたんだよね。

 基本的に照れ屋さんなのであろう。五味先生もご自身の考えや行動についてストレートに語ることはほとんどない。それは400を超えるというお作のそれぞれにも感じられる。
 そして(商業)作家としての作業の合間に作っておられる「変なオブジェ」とかも、いわゆる〝正論〟ではなくいわば「逆説」なんだな。

 俺の大好きな、パロディとかパラドクスとかに分類される言葉や行動。そして何よりご自身や社会に向かう姿勢。

 立川で、ベイシーを観て、その日の深夜に五味太郎の番組を観られたことは、本っ当に幸せな1日だったなと思う。

 どうにも脈絡のない日記となってしまったが、最後にサイト「withnews」の五味太郎先生へのインタビュー記事、

◎『五味太郎さん「コロナ前は安定してた?」不安定との向き合い方 「色んなことの本質が露呈されちゃってる」』

 を紹介して締めさせてもらおう。


【2021年2月9日追記】

 浪漫社のママこと女房が、五味太郎先生の公式ブログが独自サイトから「note」に移動していることを発見した。

 さすがとしか言いようがない。

【蛇足】

 五味太郎先生と俺とは、誕生日が一緒なのだ。エヘンエヘン。

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