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サービス紹介⑧ 知的財産部をコストセンターにしない ライセンスのTIPS
先日に引き続き、ライセンスを考慮に入れた知的財産の取得についての話を紹介します。出願には費用がかかり、権利の維持にも費用がかかる。ゆえに、知的財産部はコスト・センターとなりがちという側面を持っています。
しかし、「日本企業は知的財産をコストとして抱えてしまい、海外の企業はライセンスを活用している」という記事を見かけたならばーそれは多くの場合正しくないでしょう。
ほんの数年前のことですが、私が外資系の調査会社にいた折、同僚だった元米国審査官は「欧米企業に知的財産の活用がうまい企業が稀にいるだけ。ほとんど活用できていない」と述べていました。
また、現在インドにいる元米国巨大IT企業の知的財産部担当は「自分の初めのミッションはコストセンターである知的財産部を収益源にすることだった」と先週お話ししてくれました。
繰り返しになりますが、特許は出願するだけでも費用がかかり、維持するだけでも費用がかかります。そもそもどの国でも費用がかかる。
では、どうやって収益化するかというのが、今日のポイントです。
収益化には大きく分けて、①コストを減らす、という方向と、②ライセンス先を増やす、という方向があります。
大事なのは、「一貫した方針を定めること」とものの本に書かれています。英文では「directed filing」(方向性を持った出願)が重要という記載になります。
コストを減らす話は前回いたしました。必要な出願だけを出願するという意味です。この時、将来において収益化を目指すのであれば、「将来ライセンスができる」と考えられる出願も出願する側にきちんと入れておくということです。
今回は、さらに、もう一歩進んで、米国の場合ですが、「ライセンス先を増やす」という工夫です。
見逃されがちですが、米国法の「特許許可通知後の補正」(714.16 Amendment After Notice of Allowance, 37 CFR 1.312, 37 C.F.R. 1.312 Amendments after allowance)を利用するという方法です。下記に原文のリンクを張っておきます。
米国法では「許可通知」が出た後であっても、「クレーム」の変更を行うことを申し立てることができる場合があります。詳細な要件は原文をご参照ください。
例えば、出願の際、広く指定した権利範囲がそのまま通った場合に、本当にそのまま権利化するのが良いのかは一考できるのです。広い権利範囲はライセンスなどを視野に入れると無効化される可能性が高い。そうであれば、縮減することは十分合理的な選択肢となります。
出願、審査、権利化の全ての場面で、常に「ライセンス」を考え、「方向性」を定めていくという精密さがライセンスを成功させるためには必要な一要素といえます。
なお、権利をライセンスするときに、「我々はパテントトロールではない」と、特許権行使をためらう方もいます。確かに、特許不実施団体が過去数十年に行ってきた活動を考えると、特許権行使をためらわれるのも無理はないところです。
しかしながら、「ダンピング」と「適正な値付け」は異なります。もし、「権利のライセンスをしている自分は、パテントトロールのようだ」と感じるのであれば、それは「適切な条件」での料率が計算できていないのかもしれません。
本心から、「特許のライセンスはしたくない」というのであれば、自社事業以外の出願はすべて、審査請求しないで公開にとどめる、あるいは年金を支払わずにコスト削減に努める、等の手段を考えてもよいでしょう。
一つの思考実験です。
偉大な発明家が、ある重要な特許をありとあらゆる国で取得したと仮定しましょう。
そのうえで、彼が「この発明を私は実施しない。実施しないばかりか、他人にライセンスすることも絶対にしない」と宣言し、20年間、その技術を使うことを禁止するとしたら?
これは大きな社会的損失と思われます。
特許のライセンスはセンシティブな面があるのは事実ですが、「ライセンスはしないけれども登録しておく」という特許は、実は他社の研究開発を邪魔している可能性もあります。
ビジネスの目的は他社を邪魔することではなく、自社が提供するサービスによって、社会を豊かにすることだと思いますが、言い過ぎでしょうか?
話がそれましたので、元に戻ります。
本稿は、米国法の一例をあげて、知的財産部門を単なる「コストセンター」としないための、工夫の紹介でした。
川瀬知的財産情報サービスは、こうしたコンサルティングも行っております。taketo@kawaseipr.comまでお気軽にご連絡ください。
2021年1月6日
川瀬健人