生成AI時代の書き手の生存戦略
生成AIの進歩がここ最近ずっと話題になっています。ということで、9/6より開催していたHON-CF2024のオープニングセッションがその話題でした。本日はその話題です。
ただ、イベント全体のオープニングということで、最初のライター・エッセイストの佐藤友美さんの基調講演「人間の書いた文章なのか? と問われる時代に」は、AIについてだったのですが、その後のパネルディスカッション、司会にNPO法人HON.jp理事長・鷹野さんが入り、佐藤さんに文筆家・記者の猪谷千香さん、ライターの碇雪恵さんが加わった「生成AI時代の書き手の生存戦略」は、どちらかというとAIの話よりも、これから始まる各セッションに関連するような総括的な内容となっていました。
それはそれでめっちゃ興味深い話があり、特に現在、ライターや著者の養成講座がとても流行っていて大勢の人が来ているという話は、ゴールドラッシュで儲けたのは金鉱掘りではなく、そのための道具を売る人たちだった、という話を思い起こさせました。
こちらはまだチケット購入でアーカイブ視聴可能です。チケット販売は10月末までです。
さてしかし、一番興味があったのは、やはり最初の基調講演で話していた生成AIについてなのです。
最近、録ってあったけれど見ていなかったAIについての科学番組や、読んでなかった科学雑誌のAIについての記事などを、まとめて消化したのですが、そこで説明していた生成AIの仕組みで考えたことがありました。
生成AIで大ヒット作を作るの、これだと原理的に無理なんじゃないかな。
だいぶ大雑把な説明ですが、生成AIがまるでちゃんと考えたかのような文章を出力する仕組みは、言葉の間の関連性を学習しているからということなのだそうです。ある単語とある単語が、どれぐらい強い結びつきを持っているか。「りんご」と「赤」が結びついているというような感じですね。こういう関連性を膨大な量で学習した結果、関連の強さに従って単語を並べていくと文章が出来上がる。
では、なぜその仕組みを知り、大ヒット作は無理なのではないかと思ったのかと言いますと。
大ヒット作品を生むためには、他の作品にはない個性が必要だからです。
漫画の方が絵的にわかりやすいと思うので、ちょっとそちらで例えますけれど。
例えば現在、少年漫画の題材として、妖怪、鬼、悪魔などを退治するファンタジーが流行っています。流行りのジャンルとなると当然骨格の部分は似てくる。そこをみんな独自の解釈や用語を使い、差別化を図ろうとするわけです。
そんな時、こういう作品があったらどうでしょう。人を殺す鬼が敵。それを倒す鬼狩りの話。鬼を倒すためには剣を使って、少年漫画らしく技名を叫びながら戦います。すごい大技を出せる理由は呼吸を練ったからです。『○○の呼吸』という感じで……。
さてここまで書けば、お気づきでしょう。これは『鬼滅の刃』です。
こうやって大枠の要素を並べてみると、実は他の作品と大差ない。しかし『鬼滅の刃』はご存知の通り、圧倒的な人気を誇りました。僕も好きで連載開始当初からからずっと読んでいました。その人気の理由として、振れ幅の大きさがあるんじゃないかなと思っています。
例えば、鬼側の事情の描き方。それまで酷いことをしていた鬼の、死に際の回想を読んでみると、ちょっとかわいそうと思ってしまう。そう思わせるのは演出自体にためらいがなく、完全に振り切っているからです。酷い時にはとことん酷く、かわいそうな時にはとことんかわいそうに描いてある。
これはキャラクターの描写にも出ています。善逸や伊之助のキャラクターの描き方。思い切って極端なところに振り切っている。煉獄さんも、最初は目の焦点が合っていない話の通じない人ですが、最後は涙なしでは読めません。
ある意味では、前と後ろでつながりが切れてしまっている。それぐらいの振れ幅。それがものすごいエネルギーを生んでいる。しかも関連性をバラバラにすればいいというわけではありません。それではただの気違いです。ぎりぎりのところを攻めて、これならありだと思わせるところで成立させる。そういう「普通ではない」部分に個性が現れる。
でも、そういう点で言うと、生成AIの根本的な仕組み、関連性を学習して一番来そうな単語を並べていくという方法では、そういう個性は出てこない。なぜなら、わざと関連性が低いところに、思い切って突っ込んでいく意志と感性が必要だから。生成AIはこの仕組みのままであれば、精度はどんどん上がるけど、どんどん「そつなく」なっていくんじゃないかと思います。
世に数ある作品の中には2番煎じ、3番煎じのような書き方をしてるものもあるので、そういうものはAIに追いつかれてしまうかもしれませんし、逆に作者の方がもう下書きはAIに任せてしまえという展開もありえると思いますが、一つ突き抜けたものを作るということは、やはり人の領分なのでは。
そう考えるとAI時代の作家というのは、流行りがどうたらというようなことばかり考えていてはだめで、自分自身を突き詰めて、他の人だったらこうつなげないのに、というような表現やストーリー展開を極めていかなきゃいけないのかなと、そう思っている次第です。がんばろう。
(ブログ『かってに応援団』24/9/25より転載)