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各作品の第1話へのリンクです。 (作者50音順) 神楽坂らせん 宇宙の渚でおてんば娘が大冒険『ちょっと上まで…』 かわせひろし 少年とポンコツロボと宇宙船『キャプテン・ラクトの宇宙船』 道具として生まれ命を搾取されるクローンたち『クローン04』 にぽっくめいきんぐ 汎銀河規模まんじゅうこわい『いないいないもばあのうち』 宇宙人形スイッチくん夫婦の危機を救う『アリストテレスイッチ』 幾つもの世界と揺らぐリアリティ『町本寺門は知っている』 波野發作 銀河商業協同組合勃興記
人類は、未曾有の「まんじゅうこわい」に直面した。 落語どころの話ではない。文字通りの恐怖だった。その初期段階において、まんじゅうの形をした栗ーチャーは、戸棚の奥などから突然現れた。まるで、買っておいたのを忘れて、賞味期限が切れた事に無言の抗議をするが如く。 「冷暗所が好きなのか?」 などと、同僚は悠長な事を言っていた。 コーノード・チャカテキン博士の特効薬はすばらしい効果を発揮した。栗ーチャーからクリムシンを引き出して、薬をスプレーで振り掛ければ良い。それで動き
栗ーチャーは、突然、倍になる。どのようなメカニズムなのかは依然として不明のままだ。 今後の展開予測は、人により様々だった。 「栗ーチャーが、指数関数的に増えているではないか」 「倍々ゲームだな」 「栗ーチャーが10回増えると、1024倍になります。2の10乗。これがどれほど恐ろしいことなのか、みなさまお分かりになられますか?」 「バイバイゲームだな。この星から」 「うるさい、だまれ」 「ヤツらが増えるには、元となる原料が必要なはずだ。質量保存の法則もある。何を原
予想に反し、私は検体OMJ1244についての指揮を託されることになった。調査の甘さを詰問され、この任務からは外されると思っていたのに。 「うまくやってくれ」 と言う、ロックフォード上長の目は、不自然な程に優しかった。 そして誰もが、私から微妙に距離を取り始めた。業務に必要な会話はいつも通り。しかし、くだらないジョークや私語が激減した。他のメンバー同士は、相変わらず金や女の話をしていた。 (面倒事を押し付けられた、ということか……) さすがに私は気づいた。私には
処理棟へ急行すると、クリーンルームのテーブルには箱形のケースが置かれており、その中には動くおまんじゅうが居た。 その部屋には、研究仲間のジムも居た。 「ブンタ。熱処理しようとしたのですが、加熱器からほぼ原型のまま現れまして」 「どういうことですか?」 「熱で死なないので、急遽、追加テストを種々行ったのですが、検体OMJ1244はどうやら、高温、超低音、無酸素、低重力、0気圧のどの環境にも生き延びる、適応力を備えているようです。どんな悪条件に晒してみても、ほぼ原型のまま現
毎日、新しい試験データが私の元に上がってくる。熱耐性、体内組成、塩基配列、ラジアル荷重耐性、その他諸々。知らない評価指標が洪水のように押し寄せてきて、この部門に移籍してきたばかりの私は面食らう。 しかし、業界では一般的に用いられているらしいその指標すら、新しい知恵のように私には思えた。私の前で「ばあ」と存在し始めた指標たち。私は嬉々として、データの海に潜った。まさにこれだ。ダイビングがしたかったのだ。 早く手柄を立てたかった。より早く結果を出せば、より早くこの分析部
私の新しい仕事は、おおむね順調に推移していた。 配置転換で今の研究部門に来たのだが、何を間違ったのか「ブンタは仕事のできる男」なる根拠なき賞賛と引き換えに、前職のおよそ2倍のタスク量を手に入れていた。 (フレックス勤務だった頃がなつかしいな……) と思うこともあったが、これでいいのだ。 大好きなプログラミングはやる暇が無くなったが、なにぶん給料がよく、妻と子供を養うことができる。そして研究は面白い。毎日、新しい事を知ることができるので飽きない。まるで、今まで認識出
私が次に、日をまたぐことなく帰宅したのは、流星群の日から2週間後だった。 私の妻、ハルカからのLIME(リーメ)で知らされた。 「部屋になんか、茶色いのが居る。ブンちゃん早く帰ってきて、退治して。あとジャスミンティ買ってきて」 「今日は同僚と飲み会なんだけど?」 「飲み会と家の平穏、どっちが大事?」 メッセージと一緒に、銃を持った熊のスタンプが送られてきた。いや、どちらも大事なのだが。 熊というだけで強いのに、さらに銃を持っている。おまけに、ソレを送り込んできた
流しの鏡に映った私の丸い顔は、ほぼ真円だった。ただ1つの点で定義されているかのような、円形の輪郭。 12月。大規模流星群が観測された。 アマーゾンの天体望遠鏡は飛ぶように売れ、小高い丘はリア充のカップルであふれた。それに向かって機関銃を打ちたくなるような嫉妬から、私は無縁で居られた。なぜなら、彗星がこの星に衝突する確率のさらに1000万分の1程度の確率で、私は良き伴侶をすでに得た後だったからだ。 「ポケットの中にはビスケットがひとつ」 お菓子好きのカナタが、傍ら
(まんじゅう怖い、まんじゅう怖い) 緊張の一瞬を迎えていた俺に、禿げ上がった筋骨隆々の研究員、ゲイリーが声をかけた。 「まだためらってるのか、ヒロ」 「ああ」 「MANJUって言うんだっけか? お前の国の食い物に例えると。ソレだと思い込めば大丈夫だ。思考は現実化し、ソレはMANJUになる」 「はあ、そんなものかね」 食べた。 モサモサとして、ほのかに芋のような匂いが鼻腔に広がった。 「意外にいけるな、これ。甘すぎることもなく」 「ほう」 血色の良い、ヒゲ面研究員