マガジンのカバー画像

銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE

2016年から活動しているセルパブSF雑誌『銃と宇宙 GUNS&UNIVERSE』のnote版です。
明るく楽しく激しい、セルフパブリッシング・エンターテインメント・SFマガジン。気鋭の作家が集まって…
¥100 / 月
運営しているクリエイター

#銃と宇宙

目次

各作品の第1話へのリンクです。 (作者50音順) 神楽坂らせん 宇宙の渚でおてんば娘が大冒険『ちょっと上まで…』 かわせひろし 少年とポンコツロボと宇宙船『キャプテン・ラクトの宇宙船』 道具として生まれ命を搾取されるクローンたち『クローン04』 にぽっくめいきんぐ 汎銀河規模まんじゅうこわい『いないいないもばあのうち』 宇宙人形スイッチくん夫婦の危機を救う『アリストテレスイッチ』 幾つもの世界と揺らぐリアリティ『町本寺門は知っている』 波野發作 銀河商業協同組合勃興記

アンフォールドザワールド・アンリミテッド 20

20 公衆トイレの鏡に映った私は、イチゴの水鉄砲の塗料で髪までが水色に染まっていた。なにかを思い出しかけるけれど、思考が言葉にできない。 「脳の混乱で真理を悟ったように思えることがあるらしいです。ドラッグの服用などで」 「きずなちゃん、麻薬とかした?」 「してねーよ」  私は洗面所で雑に頭を洗う。体はへとへとだけど、なぜだか気分はよかった。  *  安西くくるのライブ映像はどこにも出回らなかった。いくつかの、写りの悪いスマホ動画がインターネット上にアップロードされたが、そ

アンフォールドザワールド・アンリミテッド 19

19 どこまでも、暗闇だった。  ここはハニカムユニバースの壁内とかいうところなのだろうか。五感の全てが失われてしまい、私はもがく。体が動いているのかどうかわからない。どちらが上でどちらか下なのかも。  イチゴのことを考える。振り向いて私を見たときの、切なげな視線。胸の奥にささやかな疼きを感じる。大丈夫、私はまだ消えていない。心はここに存在している。 「キズナニ……?」  なにかが私の中に入ってくる。やわらかくてあたたかい命。それは私の中でくつろぎ、本来の姿に戻る。 「あっ

アンフォールドザワールド・アンリミテッド 18

18 公園に安西くくるの曲が鳴り響く。音楽堂のステージが、客席が、色で染められていく。私は水鉄砲のトリガーを引く、赤い塗料がナニガシに命中する。 「何メートル飛ぶんだ。水鉄砲の威力じゃねーな」 「きずな、ちかこ、ほのか、頭部をねらえ。ナニガシからの攻撃を見極めたい」 「了解」  ちかこの水鉄砲が、ナニガシを紫色に染める。ミッチは左手で水鉄砲を持ち、右手にはいつもの赤い拳銃を持っている。水鉄砲が緑の塗料を放ったあと、銃弾がナニガシの足を撃つ。次第に、獣じみた禍々しい肉体の全容が

アンフォールドザワールド・アンリミテッド 17

17 土曜日。安藤さん、すなわち安西くくるの野外ライブの日、私たちはフータに高野台公園に呼び出された。野外音楽堂はほぼ満席だ。座席に座るにはチケットが必要みたいだけれど、園路や高台の芝生からも、すり鉢状になっているステージが見下ろせる。 「わあー、お客さんいっぱい。安藤さんこんな中で歌うのかあ。アイドルってたいへーん」 「人を呼び出しといて、フータはいないのか」 「準備があるから、あとから来るって」  振り向いたイチゴと目が合う。彼は品定めするように私のことを眺めて、なにかを

アンフォールドザワールド・アンリミテッド 16

16 高台の方から、イチゴとフータがひょうひょうと歩いてくる。 「あっ、ミッチがいる。おかえりーミッチ。なんかお取り込み中?」 「生き返ったか、しぶといなミッチ」 「おまえたちどこにいたんだ。ナニガシを取り逃がしてしまったではないか」  芝生の上に仰向けになったミッチは、自分に覆いかぶさっているちかこをどうしたものか少し迷って、彼女の背中にそっと手を回しそのまま座り直す。 「ここにナニガシいたの? あっちだと思ってフータと追ってたんだけど」 「やっぱりー、俺もこっちだと思った

アンフォールドザワールド・アンリミテッド 15

15 ほのかにメッセージで呼び出されて、ショッピングモールの中にあるカフェに移動する。通路側のソファー席でコーヒーを飲んでいるイチゴとほのかは、はたから見るとまるで恋人同士みたいに見えた。 「あ、きずなちゃーん、フータくーん、なに買ったの?」 「水鉄砲!」 「すごーい、たくさん買ったねえ」 「ほのかは水着買ったの?」 「うん。えへへー、見たい見たい? イチゴくんが選んでくれたんだー」 「けっこう大胆なやつにしたよ」 「……あー、いいや。夏まで楽しみにとっとくことにする」  イ

アンフォールドザワールド・アンリミテッド 14

14  ナニガシが私たちの中学校を荒らした次の日、学校は休校になってしまった。建前上は外出しないようにとの指示が出ていたけれど、私たち放送部員はほのかに呼び出されて、隣の区のショッピングモールにいた。 「ちかこちゃん、遅れてくるってー」 「イオン! イオンめっちゃ広いね! ご飯食べるお店がいっぱいある」 「イオンイオン騒ぐなよフータ、恥ずかしいから」  フータはカーゴパンツとTシャツ、イチゴはジーンズとTシャツの上にリネンのシャツを羽織っている。全身銀色よりはずいぶんとまし

アンフォールドザワールド・アンリミテッド 13

13  私たちが放送室を片付け終えた頃、本城先生が陰鬱な面持ちで職員室から戻ってきた。 「三好、仲谷、今日はもう帰りなさい。俺の車で送ってくから」 「先生、学校でなにかあったんですか?」 「一時間目の途中に、校内で発砲事件があったんだ」 「発砲?」  放送室の鍵を締め、校舎の外の職員駐車場まで歩いて行く。本城先生の車は小さな軽自動車だった。 「本城せんせーの車かわいいー。ほのか、助手席がいいなあ」 「いいよ、私、後ろに座るから」  ドライブ気分でうきうきしているほのかに助手

アンフォールドザワールド・アンリミテッド 12

12 「ミッチの様子はまた見に来るとして、今日のところは帰ろっか」 「あれ? 私のバッグは……」  ちかこがソファから体を起こし、部屋を見渡す。 「ちかこちゃん、階段のところにトートバッグ放り投げてたよー」  ほのかはベッドで眠るキズナニを撫でながら、足をぱたぱたさせていた。 「しまった、カメラを持ってきていたのに。不覚です」  悔しそうに階段を降りていくちかこを、フータとほのかがにやにやしながら見守っている。 「俺ら、先に帰っちゃおうか」 「そうよねー、迷子になるはずもな

アンフォールドザワールド・アンリミテッド 11

11 私たちの町は夏休み直前だけれど、ここは肌寒かった。海から吹き上げてくる風がそう感じさせるのかも知れない。半袖の制服だと少し辛い。さっきまで古い公団住宅の畳だったはずの足元は、ごつごつとしたむき出しの岩場だ。そういえば、布団に寝かされていたはずのミッチの遺体はどこへ行ったのだろう。 「あれがミッチの家……」  靴下履きのまま、私たちは岩の上を歩く。切り立った崖の先端に、ガラス張りの丸い住宅があった。 「トニー・スタークの別荘ですね、まるで」 「ほのかそれ観たことあるー。ア

アンフォールドザワールド・アンリミテッド 10

10 ぼそぼそと聞き取り難い会話がしばらく続いたあと、フータが押入れのふすまを開ける。 「話、終わったのか?」  窓からの陽光が差し込んできて、私は眉をひそめる。フータのうしろに立つイチゴの顔が、逆光でよく見えない。 「うん、とりあえずマスタには許可してもらえた。ミッチの部屋に行こうか」  イチゴの部屋を出て板張りの廊下に立つ。さっきキズナニが出てきた一番奥の部屋のふすまは、少しだけ隙間があいたままだ。イチゴが部屋を開ける。 「ミッチ……」  ちかこが絞り出すような声でつぶや

アンフォールドザワールド・アンリミテッド 9

9  私たちの通う中学校から少し歩いたところに、クラウドイーター三人の拠点があった。バス通りから少し離れた、川沿いにある古い公団住宅の階段を上がる。 「イチゴたち、こんなところに住んでたんだ」 「実は、ここ空き部屋なんだけどね」  フータが四階の部屋の鍵を開ける。造りは古いけれど新しい畳の匂いがする。板張りのキッチンには小さめの冷蔵庫が置かれている。 「空き部屋って、勝手に住んでんの?」 「もしだれかが入居してくるようなら、ちゃんと出て行くし」 「わりとひろーい。3DK?」

1-1 第1世界:リアリティ100%

「だから、何を?!」  棒のように立ち、両手をグーにして体の横に突き下ろす女が居る。和室にだ。ほっぺに朱が灯り、白ニットの下のスカートがひらっと勢い良く揺れた。 「だから、何がだよ?」  あぐらをかいて畳に座り、眉をしかめた男も居る。女の揺れたスカートの中はかろうじて見えない程度の、絶妙な角度と距離にその男は居る。  女のミディアムヘアーの上には、ウサギのように左右に延びたリボンが在り、そのリボン付近を、男は、うんざりしたような表情で横見していた。「このCMのことだよ、健