シェア
四 何で私を 警戒していたはずだった。 シロウから立ち上る、ただ者ではない気配。それはリンスゥが臨戦態勢を取るのに十分なものだった。それだけ警戒していたのだから油断などない。リンスゥの意識がそれたのは、本当に刹那の間だ。コンマ一秒かそれ以下。本来であれば、隙と呼べるほどではない。 それでも背後に回り込まれた。シロウの力量が、リンスゥの想定を上回っていた。 隙ではないはずの一瞬が、致命的な隙となった。身をかわす動作も間に合わず、人体の急所も急所、頸椎に一撃を食った
三 彼女を放せ 「はい、どーぞ。あり合わせの簡単なものだけど」 目の前に、ふんわりとやわらかく湯気を立てる料理がならべられた。スープに、卵と野菜のいため物。それに白いご飯。 リンスゥが座り込んでいたのは、とある店の裏の、勝手口の前だった。 そこは小さな食堂だった。店構えもそこに並ぶテーブルも古ぼけた、いかにもな安食堂。 だが、床もテーブルもしっかり掃除され、よくみがき込まれていた。壁に張り出された、手書きのメニューの品ぞろえは豊富だ。古くてみすぼらしいのではなく