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(読書感想文)川上未映子『黄色い家』


・あらすじ
十七歳の夏、親もとを出て「黄色い家」に集った少女たちは、生きていくためにカード犯罪の出し子というシノギに手を染める。危ういバランスで成り立っていた共同生活は、ある女性の死をきっかけに瓦解し……。人はなぜ犯罪を犯すのか。世界が注目する作家が初めて挑む、圧巻のクライム・サスペンス。

・感想
 川上未映子さんの新刊。600頁もある長篇だが、没入感凄すぎて2日で読み終えてしまった。そしてしばらく回復不能なくらいメンタルをえぐられた。
 本来は生真面目で自分の損得より人の為に何かをできる花ちゃんが、環境や人との縁、運だったり、そもそもまともに生きていく術を持たない大人しか周りにいなかったり…。様々な要因が積み重なって、ナチュラルに暗い方へ暗い方へと足を踏み入れて行ってしまうのが、なんとも言えず仄暗い気持ちにさせられる。
 よく犯罪を犯した人に"犯罪を犯したきっかけ"を問いかける場面を目にするが、実際は犯罪に手を染めるきっかけなんてものは明確にない場合が多いのではないだろうか。そして、手遅れになってしまってからようやく自分の置かれている状況を理解して、しかしその時にはもう戻れないところまで来てしまっている。
 犯罪に手を染めてまでお金を稼くことでどうにかしたかった人生が、お金のせいでどうにもならなくなってしまう。「金の切れ目が縁の切れ目」とはよく言うけれど、お金によって人との関係が崩れてしまう瞬間というのはなんとも悲しい。
 そして花ちゃんと黄美子さんのラストシーン、周りからは歪なものに見えたとしても、世間的には悪だったとしても、あの時の花ちゃんが黄美子さんに抱いた感情が、その時の言葉がもうすべてで、それに正解も不正解もないのではないだろうか。ある時の花ちゃんにとって黄美子さんの存在は間違いなく救いだった、それだけがもうすべてなのではないだろうか。
 そもそも人と人との関係に完全な正しさなんてない。人の数だけ正しさの数があって良い。それが歪かどうかなんて他人が決められることではないのだ、きっと。
 あのラストシーンがなかったらきっと読後感は最悪だっただろうから、最後にほんの僅かだけれど救いがあってよかった。
 これ、うまく言えないのだけれど、久しぶりにあった人に対して「痛いところない?」って言葉が真っ先に出てくるのって、めちゃくちゃに愛じゃね?そこには愛しかなくね?

みんな、どうやって生きているのだろう。道ですれ違う人、喫茶店で新聞を読んでいる人、居酒屋で酒を飲んだり、ラーメンを食べたり、仲間でどこかへ出かけて思い出を作ったり、どこから来てどこかへ行く人たち、普通に笑ったり怒ったり泣いたりしている、つまり今日を生きて明日もその続きを生きることのできる人たちは、どうやって生活しているのだろう。そういう人たちがまともな仕事についてまともな金を稼いでいることは知っている。でもわたしが分からなかったのは、その人たちがいったいどうやって、そのまともな世界でまともに生きていく資格のようなものを手に入れたのかということだった。どうやってそっちの世界の人間になれたのかということだった。わたしは誰かに教えて欲しかった。
本文より引用

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