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思い出の宝石を、来年は着けられると良いな

 サファイアのブルーが一番好き。と長い間、思っていた。色が薄くても濃くても、澄んでいるのに底なしのような深さを感じる。

 婚約指輪は要らないって人もいるだろうけど、私はアクセサリーが好きな方。いつもは高くなんかなくて良い。本物の「石」じゃなくて良い。でも彼の、ちょっぴり無理したのかもしれない「せっかくだから」の言葉に飛びついてしまった。

 ただ外国に住んでいた私たち。どこに婚約指輪を買いに行けば良いのかよくわからなくて、有名ブランド店、ティファニーを選んだ。

 失敗もないだろうけど、高そうだなと心配し、店の中に入るとそっと歩いてしまう。

 「わっ。キレイ!」

 やっぱり好きなサファイアが視界に入ってきた。
 でも。

 ……高すぎる。

 静かに立ち尽くす私に、大柄な店員が声をかけてきた。
 「アナタの華奢な指なら、こういうのが似合うと思うわ」
 見せてくれたのは、値段はその半分以下。
 可憐な花のデザインのダイヤモンドの指輪。
 日本人の基準なら私の指は華奢でもないし、可憐なイメージでもないのだけど……。

 見せてくれたダイヤモンドに、あっという間に心を奪われた。サファイアが何より好きだと思い込んでいたのに。

 「指にはめてみる?」

 花芯と花弁の部分がハッキリした花の形。指輪を持つと、可憐な見た目の印象とは裏腹に、少し重たさを感じる。

 緊張しながらはめてみると。

 サイズが偶然ぴったりだった。手首を動かすと、その見え方や輝きが違う不思議さを感じた。繊細なカットで、透明なのにその奥を感じられる。
 食い入るように眺めていると、彼が店員に「また来ます」と言って私をそこから引き剥がした。いったん冷静になろう。


 今も時々、箱から出す。あの時、自分の元からの好みや思い込みにとらわれず、小さなダイヤモンドの指輪を選んで良かった。

 指にはめて角度を変えて見ては美しさを楽しむ。初めて着けたあの日を思い出す。年齢を重ねてシワとシミだらけの手にも、可憐な花は愛おしく、品が良い。

 満足してまたそっとしまう。

 最近は、結婚記念日に夫と行く少しオシャレなレストランで着けるくらいしかない。
 そしてそれさえも、昨年と今年、このご時世で機会を逸した。

 来年はこの輝きを伴って行けるだろうか。

 

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読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。