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皆が元気でいますようにと祈っている

 机の角に額をぶつけて痛かった。痛い所に指をあてたら指に血がついて、余計に痛く感じて、ワンワン泣き出してしまった。その時、じゃれてたお父さんのせいだ。お父さんしか今いない。お母さんはどこに出かけたの。
 「ママ―! ママ―!!」
 泣き叫ぶ私を見てオロオロする父親が頼りなく見えてますます泣き叫ぶ。
 しばらくすると、窓から母親が帰ってくるのが見えた。
 笑顔だった母親が、「アラー!」とバタバタして、階下の中国人の大家さんと話し、その大家さんに連れられて、病院に行くことになった。車の中で私は泣き疲れたのか、気を失うように寝た。

 目が覚めたら、ベッドに横になっていて、病院の先生も笑顔で私を覗き込んでいた。額には何か貼ってあった。
 「治ったの?」と聞くと、しばらくしたらすぐ良くなるよ。それまで貼っておこうねと言われて、ホッとした。

 あの時はお父さん、ごめん。お父さんが悪いんじゃないのに。

 病院に行ったらみんなが優しくしてくれる。

 私は体が幼少期から丈夫じゃなかったので、よく風邪をひいて高熱を出したり、吐いたりした。この苦しさから早く逃れるためなら、じっとしているし、お医者さんの言うことを聞くし、熱を測るのは痛いけど我慢する(当時は今みたいに一瞬で測れるわけでなかったし、外国の病院で、中国人の先生で何がどうなのかわからないけど、熱を測るのは痛かった)。お薬は甘くしてくれていたけど、風邪をひくと「またこの味」と思う独特の匂いと甘さのシロップを飲むのは好きじゃなかった。
 でも病院の先生はみんな優しかった。

 帰国したら、やはり体が丈夫ではないから、度々病院のお世話になった。難しい顔をしている先生が多かったけど、でも優しかった。

 イヤな先生もいた。「次回は診察してほしい所をもっときれいな状態にしてきてください」とショック過ぎる言葉を投げかけてきた先生。泣きながら歩いて帰った。
 「素人に薬の何がわかるの。アナタよくそんなウツっぽい状態になるんでしょ。そんなんだから~」と言った先生。診察の後、やっぱり駐車場で泣きながら夫に電話して聞いてもらった。
 「こんなに泣くんだったら診れないよ。ひどいな。泣き止まないの?」と息子を見て言った先生。
 「質問はありますか?」と聞いておいて、質問したら何がわかるんだとばかりの怒りの表情で乱暴に教える先生。
 ムカムカくる先生には申し訳ないけどもう喋る気がなくなる。お腹の中でたくさん悪態をついて、それからもう二度と会いたくない。別の先生を求める。きちんと話してくれる先生、質問に答えてくれる先生はたくさんいて、ほーらやっぱり当たり前に会話してくれる先生はちゃんといるんだよ。と思う。

 私はいろんな地域の、いろんな病院の、いろんな診療科目で診てもらっているから、いろんなタイプの先生と出会いがある。しかも納得しないとさっさとセカンドオピニオンを参考にしちゃう信用してもらえないかもしれない患者。それでも良いんだ。良い先生はいっぱいいるのを知っているから。

 よく話を聞いてくれる。質問にもわかりやすく答えてくれる。診断についても、薬についての説明もしてくれる。
 息子が聴診器を当てられる度に、ニカーと笑いかけたら笑い返してくれる先生。お箸にピンポン玉くっつけてマイクに見立ててインタビューしたら答えてくれる先生。冬にスキーゴーグルつけて行っても「んふふ」と笑ってくれる。

 素敵な看護師さんたちもそう。息子が「僕はへびさん」とか急に言い出して床に寝転んでもイヤな顔してイライラなんかしない。
 息子がアナフィキラシーショック症状を起こして気を失った時の、看護師さんたちの冷静でテキパキとした対応を覚えている。

 インフルエンザが息子より私の症状がひどくて、1日中点滴していて情けなくなって泣いていた時、そっとしてくれたのを覚えている。
 親知らず同時4本抜き、全身麻酔手術の時。点滴を打つ時に、私の血管が見つかりにくいとは言え下手な看護師さんたちが入れ代わり立ち代わり、注射を打ちまくって痛かった。手術当日の水の飲み方を教えてくれなかったのに、急に激怒した看護師さんがいた。お気に入りのコップを取り上げられて適当な場所に放っておかれた。手術後のお風呂の説明がおざなりな看護師さんがいた。
 でも全身麻酔の後の着替えの時、身体を預けさせてもらいながら手伝ってくれた看護師さんがいた。冷えた体に、パジャマはホカホカに感じて「あったかあ~」と言うと笑っていた。点滴失敗しまくった腕を見て「うわあ。かわいそうにぃ」と腕をさすってくれた看護師さんがいた。
 胃カメラ飲むときに、背中をさすってくれる看護師さんたちがいる。
 そう言えば出産直後、一緒に喋ったり笑ったりした看護師さんもお元気かな。
 アメリカの同時多発テロ事件の直後、自律神経失調症が激しく出てしまって、内科の先生に話を聞いてもらったことがあった。あの病院は看護師さんたちもみんな優しかった。


 病院で奮闘する人たちがどうしても頭をかすめるんだ。
 安心をたくさんくれた人たちが。

 お世話になっている鍼の先生も「飲食店とそれに関連する商売も大変だろうけどね。僕たちも大変なんだ。何の援助も何の補償も出ないんだよ」と言っていた。

  ここで知り合った医療関係者たちも大変なんだとも言わず、「ちょっと違和感がある」くらいで静かに忍耐強く頑張っておられる。あの人も。この人も。お元気なのだろうか。「ほかのことで忙しいだけだから大丈夫」とおっしゃるけどどうしても心配してしまうのは私の性分なのだろう。

 これからお医者さんになるであろう、息子の友人たちも。今の世の中をどう思って見ているのだろうか。今後、どんな気持ちでお医者さんを目指すのかな。こんなんだったらやりたくないとか思わないでいてくれると良いな。

 スポーツは心を揺さぶられる。その分野に優れた人たちを見るのは気分が良い。カッコいいし、選手たちが感情を爆発させている瞬間を見れば、それまでの積み重ねや心の動きを思う。
 ヨシ。もっと。頑張れ。あとちょっとだ。って応援もするよ。
 応援している人が勝ったら興奮もする。湧き上がる気持ちも起きる。良かったね! って思う。
 観ている瞬間瞬間の私は単純なものだ。そんなに憎らしくなんて思うはずないじゃないか。海外の選手たちだって、遠くから来て疲れもあるだろう。こんな暑い気候になかなか慣れるもんじゃないだろうって思う。競技を目にすれば頑張ってーって思っているよ。
 みんなドラマがあるもの。ここにたどり着くまで。特にこの一年はね。そして目の前の戦いに。


 だけどね。
 元々スポーツ観戦好きな私だけど。

 だけど。

 無事に終わりますように。
 そして終わってから怖いことになっていませんように。
 医療従事者、関係者が声を出せる環境でありますように。

 息子が初めての一人暮らしの中でのワクチン接種も心配でならない。飛行機がまた運行しないことになった。帰って来られるのだろうか。元気な顔を見れるのだろうか。私たちも元気だろうか。夫は大丈夫かな。私も。信仰心もない私だけど、時々まぶし過ぎる空を見上げて静かに祈っている。

 ボランティアの方たちもお疲れ様です。

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かわせみ かせみ
読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。