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「違いのわかる女」と言ってみたい

 味には無頓着。そこそこであれば文句言わずに食べる。合理的な舌でできている。そんな私って便利。
 と、自分で思っていた。ながらく。

 ニュージャージーで暮らしていた幼少期、好き嫌いがとにかく多くて、野菜が苦手だった。
 特に生野菜のサラダが苦手。噛む度に、耳にキシキシ響く。きっとこれももしかしたらHSP(highly sensitive person)の特性から来ているのかもしれない。私は耳から来る響き方とか大きな音がとにかく苦手だった。今は少し慣れてきているけれど。でも50年近くかけて「慣れてきた」ってことは、やっぱり得意ではないってことだ。

 帰国後、日本の食べ物のおいしさに驚いて、好き嫌いは一気に減った。
 給食すら好きで、給食で「食べれない」とか言う子がいると、「日本の食事は美味しいのになあ~」と思っていたくらいだ。イジメられて学校が辛かった日々も、毎朝給食のメニューを見ると「おー今日は楽しみ~」なんて、その辺が簡単にできているのだった。

 そんなだから、自分の中の「美味しい」のハードルはずいぶん下の方にある。
 格別に好きな物はわかっているつもり。「すごく美味しい! おススメだよ!」とかも言ったりするけど、他の人にとって本当はどうなのか、少し自信がない。

 ちょっと昔、「ダバダ~ダ~」ってコーヒーのCMがあり、そのキャッチフレーズは「違いのわかる男」だった。
 私はきっと違いのわからない女なのだろう。と思っていた。


 紅茶も良いけど、コーヒーも本当は好きなんだ。と以前書いた。

 でも苦みが強いのは好きでも、実は酸味が強いコーヒーは少し苦手。苦みさえ強ければ、コーヒーが濃かろうと薄かろうと、あまり気にしない。

 大人になってからニュージャージーに住んでいた頃、コーヒーがあまり飲めなかった私に、ダンキンドーナツのフレーバードコーヒーを勧めてくれた友人がいる。
 25年くらい前のアメリカのドーナツ店のコーヒーなんて、コーヒーの匂いがする「それ風」の飲み物だ。わかっていたけど、そこから好きになっていった。
 そのうちコーヒー店のコーヒーを飲むように。

 一時、胃の状態やホルモン、身体の冷えなどでやめていたけど、段々また飲むようになってきた。

 夫はずっとコーヒー好き。最近、田舎なのに専門店を見つけ、あれこれ買ってくるようになった。
 自粛生活が続いて他に行く所もないから、私も時々ついていく。

 元々イートインはない。雰囲気の良いお店。

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 そこで豆を買って、夫が挽く。
 飲む。

 「わあ美味しい!」
と言う。

 この「わあ美味しい!」を私が言う時。
 わざわざ美味しいと伝える時。

 決まってそれは、コスタリカ産のコーヒー豆であると夫が指摘してきた。コスタリカ産でない時は黙って飲んでいるらしい。
 いつだって入れてくれてありがとうって思っているし、美味しいと思っているはずなんだけど。無意識に私の舌は好みの味がわかっていて、区別できているのかもしれない。
 
 それでも、ウチは二人ともそこそこ飲むし、夫は職場でこまめに飲むので、そんな時はドリップ式のパックで良いと言う。度々だと面倒だし、とりあえずそれ風の香りが楽しめたら良いのだ。夫も合理的にできている。

 
 ちょっと前に、間違えて大量に買ってしまったため、要らないかと周りに聞いて回った。ニュージャージーに住んでいた頃、フレーバードコーヒーを勧めてきた友人にも、声をかけてみた。
 すると彼女が「ドリップ式のパックなんか薄いから飲まない」って言う。


 ……! なんですって!!
 ダンキンドーナツのフレーバードコーヒーが好きだったのにぃ?

 と思ったけど、考えたら彼女は、帰国後、大手のコーヒーメーカー会社に勤めたのだった。
 彼女の味覚もすっかり変わったのだろう。しかも合理性も切り捨てるストイックさ!

 いやでも待って。ドリップ式パックのコーヒーを飲んでいる私が「味のわからない人」みたいだ。

 わからないんじゃない。合理的なんだ。……と、予備校の先生みたいに強く主張できるほどの自信もない。(「聴こえないんじゃない。言ってないんだ」に、ひどく感銘を受けていた夫)

 いやいやでもでも待って待って。私だってコスタリカ産のコーヒーが好きなんだからね!!(好きらしいんだからね!!)

 ちょっとだけ違いのわかる女、をアピールしたくなった。

#エッセイ #コーヒー #コスタリカ産 #違いのわかる

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かわせみ かせみ
読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。