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音を欲した停電中

 空気を切り裂くような激しい雷が何度もした後、バチンと小さな光が消えた。
 「あ。停電だね」
 そのちょっと前から夫と二人して「すごい雷」と声を交わしていた。あんまり大きな音だから、5時前だったけど目がさめて。
 
 停電中は、それはそれは静かで。
 田舎だからもともと静かなのに。
 音のしない不思議さに耳をひそめる。
 
 しらじらと日の光が窓から入ってきて、阪神大震災のあけてきた静かな朝を思い出す。
 明るくなってきたら車のブーンて音だけがして、また静かになる。
 
 普段いったい何の音を聞いているのだろう。
 
 冷蔵庫は開けないでいたら2~3時間は持つと知って、朝ご飯はかけていたバナナだけを食べる。
 昼間に一度電話する約束をしてから、夫はいつもより早く出勤。
 
 さて何をしようか。洗濯も掃除もできない。普段ならテレビを観ながらストレッチなど始めるけど無音でちょこちょこやって、気分が乗らない。いや乗らないんじゃないな。落ち着かない。
 洗い物をしながら水が出てありがたいなと二度の震災をまた思い出す。朝の涼しい時間で良かった。
 ゴミ出しをすると、近所の人に声をかけられる。彼女も不安なようで、交わす言葉で互いに一瞬盛り上がり、安堵を覚える。
 
 パソコンもできないのか。スマホは充電もあるし、充電器もたっぷり。でも目が疲れるし朝からしっかり見る気はしないなあ。
 
 鼻をすする音が虚しい。雨でたまっているのか、どこかでポタンポタン水のしたたる音が聞こえてきてホッとする。
 人は音を欲しているんだな。

 よく災害時にエンタメは必要なのかとか議論される。
 やっぱり心には必要なのだとなんとなく結論づけていたけど、もしかしたら本能に近いところの欲求なのじゃないかしら。
 眠る欲求があるように、音楽も。お喋りも。必要以上のものなんじゃないかって。
 
 ウグイスの鳴き声を。自分の足音を。聞きながら思う。

 元々音が聞こえにくい人は、どんな世界を生きているのだろう。改めて思いをはせてみる。
 
 電気は約3時間後に戻ってきた。ありがたい。

 そんな先週のある日の話。

 全国で台風や雷雨で停電が相次いでいるそう。何日もだなんてこの暑さには厳し過ぎる。
 被害に遭ってしまったらどうか一刻も早い復旧となりますように。きっと現場の人たちも必死で復旧に当たってくれているはず。


読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。