マスク生活に慣れたようで本当は慣れていない
マスクつけ忘れて車に取りに戻る。すぐに気づいた時は良い。
スーパーの入り口で、いつもより多く感じる視線の原因がわかった時は慌てるし恥ずかしい。
人がしていないとまた違った気持ちになるのに、自分だとどうしてこうも慌てるのだろう。
息子が大学で対面授業の時に、マスクを忘れてきた子がずーっと申し訳なさそうに両手で口を覆っていてすごく笑えたと話していた。きっと気づいたのが、買いに出る時間もないギリギリだったんだろうなあ。
マスクし忘れた夢だって見る。今のところ二回。
二回とも、見知らぬショッピングセンター。「マスク忘れた! マスク生活に慣れてしまったがために化粧もまったくしていない!」。初対面の人(誰かはわからない)に会いに行くのにこんなすっぴんでマスクも忘れて。と焦っていると周りの誰もマスクをしていないと気づく。えええ。さすがにすべての人がマスクを着けないで良い日常は、まだちょっと早いんじゃないだろうか。自分のことは棚に上げてあたふたしながら目がさめる。
……。
マスク生活が長いですね。
すごく嫌いとかじゃないけど、好きでもない。便利な面もあるけど、やっぱりうっとうしい。
残念に思う理由の中に「人の顔がよく見えない」「顔を覚えなくなった」がある。
店員さんのマスク生活以前の顔もうろ覚えだし、マスク後に至ってはマスクを外した時の顔を見ると驚いたりする。きっとどこか別の場所で会ってもわからないだろうなあと自分を信用していない。
時々「この人、知ってる人かも」としっかり顔を見る。私がしっかり見るものだから相手も「なに?」「知り合い?」といった風に、こっちを見てくる。互いに目が合い、確認をして「……。違った」って恥ずかしい思いをする。あの気まずさったらない。
何度もやらかしてしまったので、知ってそうな気がしても段々目を合わせないようになってきた。
今はまた控えているけど、一時カフェ通いを少しずつ復活させようとしていた。
でも以前は馴染みのカフェで、よく顔を合わせていた方と会わない。
彼女は、私が親しくしていた友人のお姉さんの知り合い。近くで一緒に習い事をしていて、その帰りにカフェに寄るようだった。
友人がお姉さんに声かけがてらその彼女に挨拶をする。繰り返しているうちに、私も顔見知りになった。
そのうち友人のお姉さんはその習い事をやめ、友人はそのうちに引っ越したので、その彼女と私は一対一でも挨拶をした。近くに座れば言葉を交わす時もあったけど、互いに一定の距離を保って遠慮し合っていた。
当時の私は週に1~2度くらいそのカフェに通い、彼女も足しげく通っていたようで、少なくとも2週間に一回は居合わせ互いに会釈した。
昨年の緊急事態宣言があってから、滅多に行かなくなり。何か月かしてからテイクアウトでコーヒーを買ったけど、一瞬だったし彼女はいなかった。
そのカフェが併設する施設や中にある多くの店舗も多く変わってしまい、以前は好きだったその場所が、魅力的ではなくなってしまった。声を掛け合っていた店員さんもいなくなっている。どうしても足は遠のく。
先日はまったく別のカフェに、近くの用事ついでに寄ってみた。
オーダーしようと並んでいると、私の方をじっと見る人がいる。
目が合う。
すごく見てくる。
私も久しぶりにじっと見た。
あ。
よく通っていたカフェの。友人の。お姉さんの。同じ習い事していた。あの彼女!
……かな。
自信がない。
自信がないけど、向こうが「ほらもー。わかるでしょ。私よ。お久しぶり!」とばかりに、ちょっと遠くから身振り手振りで挨拶してくる。
おおやっぱりそうですよね!
お久しぶりです。お元気ですか。
と声までは出なくても私もそんな感じでぺこぺことにこやかに挨拶した。
いやあでも、2年近く見ないうちに互いにちょっと老けちゃったのかな。まあお互いマスクしているし、お化粧していないし、こんなものだよね。
席の間隔や混み具合で彼女の近くには座らなかった。そもそもよく喋った仲でもないし。
でも見える位置に座った。
いつも私がパソコンやっていても、彼女は退席する時に「それじゃあまたね」と手をひらひらさせ、にこやかに会釈して去って行く。
……はずだった。
前はいつも。
でも今回。去って行く彼女を見上げ挨拶しようとすると、ふら~とそのままこちらも見ずに出て行った。
あれ。
あれれ??
通り過ぎていく彼女を見上げながら思った。
もしかして。
人違い??
私は彼女のマスク外した姿を見なかったけど、私はコーヒーを飲む度にマスクを外したので彼女から私の顔は見えたはずだ。
だとすれば、彼女が人違いに気が付くケースもある。
もしかして。
似た人を知っていただけ?
お互いに。
そう言えば、あまりオシャレしていなかったな。この田舎街にしてはいつもオシャレなお姉さんだった。参考にしたいくらいの。いや、単に今日は普段着だったんじゃないだろうか。以前は決してかぶっていなかったキャップもかぶっていたし。
「……。」
彼女が去ってから、恥ずかしくなったけど、私はまだあの彼女だったと信じたい。だってあんなにハッとして挨拶したのに。互いに目を見て。