あの時のおまじない、効いた気がしているんだよ~小学生時代の友達へ~
それはそれは「おまじない」に入れこんだ年ごろだった。
小学生の4年生とか5年生の頃だったかな。
一生懸命願えば叶う。と信じていたのだろうか。
その後、小さな物事一つ一つが叶わなくて、現実を知ってきたのだろうか。
賽銭箱に小銭を投げ入れ、手を合わせた後
「テストで全部100点取れますように。って願っといた!」
と晴れ晴れした表情の私に「でも努力しないと叶わないわよ」と言う母の言葉に、ガッカリしたことがあった。
好きな子の足あとを三歩踏むと、両想いになるって聞いても、教室をほぼ同時に出ないと、グランドにはたくさんの人の足あとだらけになると気が付いたこともあった。
何かを口で唱えても、紙に書いて枕の下に入れても、全然思い通りのことは起きない。
毎月楽しんでいた漫画雑誌の1コーナーに書いていたおまじないを読み、おまじないの漫画みたいな本を買い。どれか実行できないかなあなんて、読んでは頭の上でホワンと想像してみていた。
現実を知り始めても、どうしても読んでしまう。今の私にとっての「今日のラッキー〇〇」を楽しむのに近い気持ちがあるだろうか。
進学塾には、同じ小学校の子とよく喋っていたけど、そんなに気が合うわけでもなく、ひたすら問題を解ける面白さを味わうために通っていた。
おとなしくしているけど本当はお喋りしたい。そんな気持ちが表情から漏れ出る子を、かまいたくなるところが当時の私にはあった。
塾の最寄りの駅から塾の建物まで歩き、エレベーターを上がって教室に着く。その間によく彼女と一緒になって、ちょこちょこ言葉をかけた。
話し始めると彼女の方がよくしゃべる子だとわかった。授業が始まる時間まで、側溝をまたぐごく短い橋のような所で、よく立ち話をした。並ぶと私より少し背が高く、色白でくせっ毛の、細い声の彼女がとっても可愛い。
その日。おまじないの話で少し盛り上がった。
「赤いハンカチに、お互いの髪の毛一本を入れるとずっと友達でいられるんだって」と彼女が言う。
赤いハンカチ……。あー全部赤じゃないけど持ってる。
今度の授業の時に持って来ようよ。
ここで〇時△分に待ち合わせようね。
髪の毛とか、今考えると気持ちが悪いのに、小学生のその頃はそんなことより、おまじないを試してみる方が面白かった。
部屋の引き出しに、四角く折ったハンカチをキレイに重ねて片づけていた。
上から何番目かにあった赤いハンカチを出して眺めた。黄色や青や白のちっちゃな花柄が散りばめてあるけど、大丈夫だよね。
〇時△分。
遅れないように行って彼女と会った。
「持ってきたよ」ウンウン。顔を見合わせて笑う。
彼女が髪の毛を一本抜いて渡すので、ハンカチに包んだ。私も一本抜いて彼女が赤いハンカチに包むのを見た。
ちょっとドキドキした。
家に帰ると、ピアノのオルゴールの上にそのハンカチを置いた。ピアノのオルゴールとその周りは、私にとって宝物コーナー。
その後、教室で話すわけでもなく、塾から行った夏合宿(と名の付いた旅行)でもいっしょにいなかった。九州に向かう船の中、船酔いしてしまったらしいと噂を聞いて、友達たちとお見舞いに行った。
色白の彼女は、もっと白い顔をして横になっていた。
つらそうで何と声をかけたら良いのかわからない。「大丈夫?」なんて野暮なことを聞くと、「うん」と言ったもののまた目を閉じた。
そのうち彼女は塾を辞めてしまう。
厳しい塾で、今なら許されないような当時の先生の言動に、彼女がダメージを受けているのを感じていた。私もそういったことも含めてストレスで後にやめるのだけど、誰かが怒られる度、彼女の表情はこわばっていた。
赤いハンカチをどうしたものか。引き出しの中、重ねたハンカチの横に置いた。
たぶん彼女の気持ちに、私は応えられていなかった。
私は昔から今も、親しい友達とずっと一緒にいられない。好きな人とはベッタリが良いのに友達となると、あっちこっちフラフラしたい。
そんな私のふるまいのために、何度も親しいと思っていた友人に離れられている。
だけど他の子たちとだって喋りたいし遊びたい。みんなそれぞれちがう良い部分があるんだもの。私は自由でいたい。
でもこんなだから「誰にでも良い顔する」とか言われちゃうのかもしれない。
心の中にその子が大きくいれば私には充分なのだけど、相手にはわからないよね。不安にもさせるだろうし、なかなか信じてもらえないよね。だから私って信頼し合える友人関係を築くのに人の何倍も時間がかかると自分でわかっている。それでもね。四六時中、行動を共にするのはどうしてもいやなんだ。
当時は相手の気持ちも、そんな自分の傾向もわかっていなかった。
でもさ、ほんの短い期間の、ほんの短い時間を分かち合っただけなのに、40年以上経っても、まだ覚えている。
だからおまじない、効いた気がするんだよ。
読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。