ささやかでほんのりした幸せ
好きな時間て、きっと誰にでもある。
運動で体を使う時。ちょっとしたものから大作まで含めて、創作活動に没頭している時。映画の内容、本、漫画、ドラマに集中している時。
能動的に積極的に、何かに働きかけ集中するものもストレス解消につながるし、良い気分になる。それは気が付くと数十分から数時間に及んだりする。
でもそうじゃなくて。
たった一瞬から、長くて15分程度。
何かしているようで、していない時間。
ぼんやりする時間。
私の場合、たとえば美味しい物を食べたり飲んだりした時。鼻から大好きな物の香りが抜けている瞬間、「はふ~ん」と幸せな気分になる。
大好きな映画の余韻に浸っている時。座ったまま感情をかみしめる。
好きな物をただ眺めている時。買うつもりもないけど、素敵だな~とただ見るだけの、「その物」から広がる妄想の世界。
そして。
お風呂に入っている時!
昨夜、お風呂からあがる瞬間に「この気持ち、書いて残しておきたいな~」とふと思った。
子供時代~若い頃は退屈だと思っていた湯船に浸かる時間。
結婚してからは、温泉の良さや湯船の浸かり方を夫が教えてくれた。
当時、もう少しの時間、浸かっておれと私を説得した。「汗がすごい出てくるし、それに退屈!」と言うと「それが醍醐味なんだ!」と、熱く語っていた。
でも一度、言うように入ってみたら、「身体がポカポカしてる! スッキリもした!」。
すると、「そう。それ! それがお風呂の良さだ。日本に帰ったら温泉に入ろう!」
夫は鼻息を荒くし、天を仰いで拳を握った……かどうかは忘れたけど。
札幌に戻ってから、夫はあちこち温泉に連れて行ってくれた。層雲峡。登別。洞爺湖。定山渓。ニセコ。など。札幌から車で行ける温泉地はたくさんある。
個人的に温泉にゆっくり入りに行く経験がなかったので、最初はどうしたら良いのかわからなかった。脱衣所での振る舞い方、洗い場での振る舞い方、湯船での浸かり方。慎重な私は事前に何度も夫に聞いて、頭の中で予行演習をした。
温泉に慣れてくると、自宅の湯船も気持ちよくなってきた。ただまだ少し退屈だった。
息子ができてから、お風呂に入れるのは主に夫の役割。出張の時以外は、晩御飯とお風呂に入れるために仕事からわざわざ帰ってきてくれて、また仕事に出て行くなんて日も度々あった。だから息子ができてからも私は比較的ゆったり入れた方だろう。ただし、「息子が泣いている?!」の空耳で、何度もドアを開けて確認、と落ち着いた雰囲気ではなかったけど。
息子が少し大きくなって一緒に入る時間は、息子のお遊びタイムが発動し、よくのぼせてしまったけれど、基本的にはやっぱり夫が息子と入ってくれた。
それでもまだ何年も前までのクセはなかなか抜けず、早く上がりたくなる気持ちと葛藤があった。ちゃんと温まるまで、と自分に課すようにして。
最近、スマホを持ち込む人が多いと聞く。私も何度か持って入ってみたけど、長く入り過ぎるし、疲れが取れた気がしないので、何も持たずに入る。
湯船に浸かり、ぼんやりしていると、次々と考えが浮かんでは消え、また考え。あのことこのことについて思いを巡らす。
一段落すると、だいぶ時間が経っていて、さあそろそろ上がろうと湯船から立ち上がる瞬間。
あ~幸せだーとしみじみする。
お風呂に浸かる時間が大好きになった。