自分でベッドマットレスを解体するのって大変だ
息子が一人暮らしをするために、この春、家具や家電製品をネットで注文しまくった時期がある。できるだけ同じ所から注文し、でも安くないと大変だから、比較したり選んだり。根気が必要で、酔いそうだった。
同じ日の同じ時間帯に届くようにし、私たちはその日時に待ち受けた。
安く済まそうとすると組み立て式の物がほとんどなので、夫と私と息子と三人で、ひたすら組み立て続けた。
「これは私が組み立てとくね」「これは僕がする」などと言いながら、次々と段ボールを開き、各自作業をこなしていく。本当は私、こういう家具組み立て作業が大嫌い。でも家の物はだいたいを私が引き受けている。この時ばかりは夫も息子も頑張っていて、私も不平不満を言う雰囲気はなく、心を無にするようにして黙々と続けていた。
でも。
……あれ?
この段ボールはなに?
終盤で気づいたのが、ベッドのマットレスだった。
掛け布団とかシーツとか枕とか注文した時に、マットレスもと思ったのだけど、マットレスはベッドに付いてきたのだ。
つまり、マットレスが二つになってしまった。
……送り返す?
……。
うおぉぉ! 面倒くさいーーー!!!
我慢して作業を続けていた気持ちがとうとう途切れてしまった。
今まで注文した苦労。組み立てる苦労。段ボールを片付ける苦労。
そのどさくさに紛らせて良かったのだけど、猛烈に面倒に感じてしまい、自宅に送ることにした。それもそれで面倒なのに。
ふと自宅の息子のマットレスのコイルがダメになっていたのを思い出し、それで自宅に送るのも良いかと思いついたのだった。
さて。自宅の古いマットレスはどうするのだろうか。
購入した店を調べてみたら、その店で新しく購入したら古いのを引き取るとのこと。じゃあそれはできない。
粗大ごみの日に出すのかな。次は市に電話してみた。
すると、まず中の様子を教えてくれと言われる。
切って開けてみたら、紙に一つ一つコイルが入っていて、それがつながっていると伝える。
すると、マットレスのままでは捨てられないと言うではないか。布や紙は全部燃えるゴミとして出し、バネも全部一つ一つにして燃えないゴミに。「大変だけどすべてをバラバラにして下さい」と半笑いで言われた。
「う~……え~……」
弱々しい聞いたこともない返事が自分の耳から聞こえてきた。そうか。そうだよな。面倒くさいけど頑張るしかないもんな。泣き笑いながら電話を切った。
そして作業開始。
コイルを包んでいるカバー同士は、繊維のようなものでくっついている。
コイルとマットレスの枠は全部、丸くて太めの針金のような物でつなげてある。
当たり前と言えば当たり前なんだけど上下。真ん中辺りも丸い針金はついていて、それは手で取れるような物ではない。
そのうちこのセットが息子の部屋の机に並ぶようになった。
カッターで、コイルを包むカバー同士をザーッと切っていく。意外と深くて力も要る。
切り開き、コイルのカバーを露わにする。
まだまだ使えそうな気がするけど、コイルがダメになっていない部分を写したので。ダメになった部分は、ベコベコにへこんでいて、息子がコーラをこぼしてしまって汚くて。
ハサミでカバーを一つ一つ切ってコイルをだしやすくする。ベッドの枠とコイルとをつなげている針金は、両手でペンチを持ち、広げていく。
やってもやっても思ったほど進まなくて、「あと2~3回で終わりそうだよ~!」と仕事から帰った夫に、繰り返し宣言するオオカミ少年みたいな日々が続いた。
いつの間にかどこかで指を切ってしまうようで、巻いた絆創膏をあちこちで指摘されて恥ずかしい。特に込み入った部分を外すのが大変。
軍手をはめて作業してみたけど、手がムレムレになる。
全部で10時間くらいは費やしたのだろうか。
バネの部分だけで5袋ほどあっただろう。
とうとう枠だけになった。
マットレスを形作る枠なので、大きな長方形が上と下、二つある。
枠も切って小さくした方が良いかなと、カナノコを購入。
角の四か所を上下の枠、二回切れば良いかな。思ったより時間かかると聞いていたから、一か所5分として、40分くらいかかるのかな。1時間後には終わってるんだわきっと! と切り始めた。
40分経過した。
一か所も切れていない。
ずっと同じ所をギーコギーコやっている。5分おきくらいに時計を見ては「だいぶ溝が深くなった。もう少しだ!」と思った。
でも40分すぎた頃。つまり8回目くらいの「だいぶ溝が深くなった。あともう少しだ!」と思った頃、とうとう湧いてきた気持ち。
もうやりたくない。いやだ。
いったい何度「あともう少しだ!」と自分を鼓舞しないといけないのか。全然変わっていないではないか。汗だくなのに、あとどのくらいかかるのだ。これが一か所切れたところで、あと8回もこれを繰り返すのん? きっと下手なんだろう。それかカナノコが合っていなかったのだろう。
仕事から帰宅した夫に伝えて枠を見てもらったら「えっ。このまま出しちゃダメなの?」
えっ。
このまま出して良いと思うの?
「だって一人で簡単に持てる範囲なら出して良いって言われてるんでしょ?」
確かに。
出してみて、ダメだったら回収されないのを知っているから、ひとまず出してみよう。
そしてそれは、燃えないゴミの日にあっさりと回収されたのだった。
なんだか釈然としない思いを抱えつつ、でもようやく新しいベッドマットレスを開封する段階に。
これがもうみっちみちに空気抜いて圧縮されて、クルクルに丸めてあって。ベッドの木枠の土台にマットレスを置いて、ビニール袋をハサミで切る。するとその裂け目からマットレスが破裂して飛び出そうで怖い!
「ひやっ! ちょっと!」って家の中、一人で叫びながら少しずつハサミを入れた。最後はパム! と思ったよりだいぶ小さな破裂音がして、ビニール袋が全開になった。
すると、今度は縮まっていたマットレスが伸びをするみたいにグググーンと膨張を始める。
ミシ……ミシミシ!
木枠の土台なのか音を立て始めた。……いったいどうなったらこんな音が出るのだ。聞いたこともない。
もう声も出ない恐ろしさ。
なにこの音!
ベッドがマットレスに壊されそう!!!
ハニワみたいな顔で首をすくめて見守っていると、ミシミシ音は止まり、平らなマットレスがベッドの枠にフィットしていた。
美しいじゃないか……。
ようやくこれで一連の作業が終わった。
きっと大型家具店で新しいベッドを買い、古いのを引き取ってもらうのが使う側の者には一番ラクなのだろう。業者さんはこういう作業をどうやっているのだろう。便利な道具があるのかなあ。
とりあえず、夏休みに息子が戻ってくるまでには間に合ったし、こうやって書いたのを読んでいただけるのでヨシとしよう。