意図せずして、熱唱を聴かせてしまった
何故急に思い出してしまったのだろう。
映画「イエスタデイ」のサントラを聴きながら、一緒に熱唱していたからだろうか。
いやもうこれから書く内容は、タイトルそのままなのだけど……。
皆さんも、きっと童謡を振付込みで歌ったこと、あるだろう。幼少期。お子さんがいらしたとしたら、お子さんと一緒にでも。
では、それを人前で披露したことはあるだろうか。
幼稚園のお遊戯で? イヤイヤ、個人的に。
家族に? イヤイヤ、家の中でとか身内にとかじゃなく。
音楽教室の発表会? イヤイヤ、とにかくもう「これから歌います。聴いて下さい」前提じゃなく!
***
その日、私は大変ご機嫌だった。友達と遊んで、家に帰る道すがら。楽しく遊べたんだろう。
帰国子女としてはまだ日が浅かったと記憶している。日本では、こんな風に、学校で習った歌に決まった動作をつけて踊る、音楽の授業があるんだー。
「大きな栗の木の下で」って振りが上手くできているよなあ。「大きな」で両手を高く広げて。「栗の」で頭の上で大きな輪を作って栗の形にする。「木の」で両手を頭に、「下」で肩に、「で」で気を付けの形に両手を下ろす。面白いな~。
そう。まだ小学校二年生ころの話。
道の真ん中で、いきなり私は大声で歌いだしてしまった。歌い出しは、ほぼ無意識だったはずだ。とにかく機嫌が良かったので大きく振付しながら。「うまいことできてるわあ」と思いながら。
とその時。
視線が気になった。
「ん?」
気になった先を見てみると、隙間が多い垣根の奥。近所のお姉さんたち二人とそこの親御さんと目が合った。
「うふふふ!」
笑っている!
笑われている!!
自分の熱唱を聞かれていたと気がついて我に返り、半笑いの表情を浮かべてその場を走り去った。家の中から「あはははは!」と大きくなった皆の笑い声が追いかけてくる。
あああなんて恥ずかしい!!
***
時は経ち。その25年くらい後。
2歳くらいの息子を抱っこしながら、「カエルのうた」を歌ってやっていた。
全然ひと気のないトレッキングロード。両側に木が並んでいる。木の向こう側にも前にも誰も見えない。段々気分が良くなってきて声が大きくなってくる。無遠慮に声を張り上げ、「ゲロゲロゲロゲロくわっくわっくわ!」のところまできた。
ところが、「ゲロゲロ……」のところで、大熱唱していたにもかかわらず、私はふと気配を感じて後ろを振り返った。
年配のご夫婦らしき二人が申し訳なさそうな顔をして、すぐ後ろを歩いている。
しまった……。
誰も見えないけど、前に見えないだけなのだった。後ろに気を配っていなかった。あああ隙だらけの私。武士なら斬られているじゃないか。
しかも、よりによって、音としては一番聞き心地の良くない「ゲロゲロゲロゲロ」のところで気が付いたのだ。大声で「ゲロゲロ」なのだ。
「あっ。……すみません」
さっきまでの声は。とツッコミ入れたいくらいのしおらしい声で立ち止まり、その二人に先に行ってもらった。そそくさと歩き去るお二人の後ろ姿を、遠い目で静かに見送った。後で笑っているのかなあ……。油断してたなあ……。
こうやって、私はまた童謡を熱唱しているのを、ストリートミュージシャンでもないのに、青空の下で披露してしまったのだった。
次、心配する時があるとしたら、車や家での大熱唱が、意外と外に漏れている時だ。気を付けよう。
読んでいただいて、ありがとうございます! 心に残る記事をまた書きたいです。