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一つのもの


「全ての物事は繋がっておる。と賢者は言うがな。わしには実感がない。しかし賢者の言葉じゃ、一応伝えておく」
「はい、よろしくお願いします」
「うむ」
「雲も私と繋がっているのでしょうか」
「糸でな」
「たこ糸のようなものですか」
「たこあげではない。雲は一つではない。空は糸でごちゃごちゃじゃ」
「では本当の糸ではなく」
「だから、本当の糸では絡んでしまうじゃろう」
「はい。私と師匠も繋がっておりますか」
「繋がっておる。虫もな」
「実感はありませんが」
「それは最初に言った」
「でも実感のないものでは」
「万物、森羅万象、実は一つなのじゃ」
「じゃ、その一つも別の一つのものと繋がっているのですね。一つのものなどないのではありませんか」
「踏み込んだな」
「土足で失礼します」
「たった一つものと万物は繋がっておる。そのたった一つのものは」
「だから、その一つのものも、別の一つのものに繋がっていないとおかしいですよ。そしてその一つのものも無数にあって」
「一つという言い方が悪いのかもしれん」
「師匠はどう思われているのですか」
「親類は繋がっておるが、その程度じゃろう」
「でも万物は全て繋がっているのなら、血縁とは関係はなく、他の人たちとも繋がっているんですね」
「答えにくいが、賢者はそういう」
「しかし、私と師匠とは違います。一緒じゃありません」
「当たり前じゃ。そこが壁でな」
「はあ、壁ですか」
「説明しておるわしがそもそも納得などしておらん」
「難しい話なのですね」
「平っつたい話ではないということじゃな」
「でも賢者のお言葉」
「万物はそういう仕掛けになっておると賢者が発見したのじゃ」
「どう掛け足したのでしょうねえ」
「わしにはよう分からんが、一応伝えたぞ」
「それ、役に立ちますか」
「話が遠すぎるので、役立つまい」
「もっと近い話が良いです。親戚縁者とどう付き合うかとか」
「虫は無理か」
「はい、無視です」
「そっちの話の方が良さそうじゃなあ」
「次はそちらでお願いします」
「うむ、有名な愚人がおってな。これは笑わせてくれるので、楽しみにな」
「はい、そちらの方が好きです」
「うむ。わしもそちらの方が得意じゃ」
「あ、はい」
 
   了

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