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見剣山の妖術使い


「見剣山に妖しい術を使う者がおると聞いたのじゃが、見てきてくれぬか」
「私がで、ございますか」
「そうじゃ、そちなら適任。聞くところによると、妙な物を信じておるとか」
「屋敷の庭に祭っている家神様ですか」
「それが妙だと聞いたぞ」
「謂れは分かりませんが引っ越しの度に、その祠も移動させております」
「謂れが分からぬのか」
「はい。神様か仏様かも分かりません。名前もありません」
「ではどう呼んでおるのじゃ」
「お家様です」
「何処から持ってきたものじゃ」
「それが分かりません。先代がこの地に屋敷を構えた頃からです」
「最初から祠に入っていたのか」
「ただの石です」
「ほう」
「これはお家様ではないかと、先代が思い、祠を建て、その石を祭りました」
「その石は見ることが出来るのか」
「はい。ありますが、ただの石です」
「それを神だとどうして分かったのじゃ」
「さあ、庭には他にも石がありましたが、その石だけが妙に違っていたとか。これはきっとこの敷地内の主ではないかと先代は思ったようです」
「うむ」
「その後、もう何代にもなりますので、そう言うものだと家人達は思っております。私もそうです」
「石を見たいところじゃが、家神様ではわしには関係がないか」
「あ、はい」
「それよりも、先ほどの頼み、聞いて貰えるな」
「はい。見剣山の妖術使いですね。見て参ります」
 その武士、見剣山の中腹で小屋を発見し、その中に入ると、真っ白な髭を生やした老人が横たわっていた。山仕事で、疲れたらしい。
 妖術が使えるのかと聞くと、そんなものは使えないという。聞けば村から追い出された厄介者らしい。きっと村の秩序を破るようなことをしたに違いない。
 妖術使いだという噂に根拠はなかった。ただ、その風貌が、そういうややこしい術を使う人間を思い起こさせるのだろう。ただ、本物の妖術使いなど、誰も見ていないのだが。
 
   了

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