付ける薬

「そうキャンキャン吠えるでない」
「しかし、間違っています。私が許しません」
「だが、皆が受け入れていることじゃろ」
「それが間違いなので、間違った受け取り方をしているのです」
「それはいいが、別に間違っておろうともそれほど違いはなかろう。どちらでもいいこと、その程度の問題なのじゃ。目くじらを立てて騒ぎ立てるようなことではない」
「でも、それでは間違った道へと。それに本筋を示すことが大事で、私の勤めでもあります」
「誰も頼んでおらぬがのう。そんなことは暇人に任せておけばいい。どうせ浮き世離れした世界の話なのでな。なくてもあっても誰も困らん。あればあったで楽しむ程度」
「私が許しません」
「それはいいが、おぬしは許されるのか」
「え」
「人のことなどよりも、自身のことをやりなさい」
「やっております」
「成果が出ないようじゃが」
「力不足でして」
「そこをもっと磨いた方がいいのではないのか」
「はい、そのために色々と見て回っています」
「それで、性に合わんものを見ては吠え続けておるんじゃな」
「いえ」
「まあいい。それがおぬしの性分」
「いろいろと自分を変えようとしている最中です」
「変えようとせんでも勝手に変わるもの。そこは弄らぬ方がいいぞ」
「しかし、許せません」
「まだ、言っておるのか。じゃ、お許し下さいと謝れば済む問題か」
「いえ、謝ってもらわなくてもいいのです。ただ、それは正道ではないと言うことを私は言いたいだけで、それ以上のものではありません」
「おぬし、何様じゃ」
「そんな偉い人間ではありません」
「困った性分じゃのう。いつまで立ってもキャンキャン吠え立てる。しかし、そのときは威勢がいいし、元気じゃのう。生き生きしておる」
「では、私はどうすればいいのでしょう」
「自分のことがどうにもならぬ故、噛みついておるんじゃろ」
「仰る通りです」
「よう分かっておるではないか」
「はい」
「まあ、吠え立てて発散すればよかろう」
「それだけですか」
「付ける薬がないのでな」
「あ、はい」
　
　　　了